1ー47【打倒クロスヴァーデン商会4】



◇打倒クロスヴァーデン商会4◇


 作業を終えて管理者室に戻った俺はその日、泥のように眠った。

 隣では、ミーティアが呆れるように俺の寝顔を見ていたらしいが、一切気付く事なく朝までグッスリだったそうだ(ミーティア談)。


 そして次の日。


 俺は起きてミーティアと朝食を取り、契約精霊のフレイに魔力を分け(自分の腕を切って治癒させた、【哀傷あいしょう】で痛くないから大丈夫)、そして彼女にお願いをする。


「……え、これ?」


「そう、これ。出来るか?」


 フレイウィ・キュアは【治癒の精霊】だ。

 彼女に渡した“これ”……は【ヌル】の事。

 そう、この【ヌル】に治癒の力を封じ込めて欲しいんだよ。


 今日は真っ白い髪を束ね、ツインテールにしているフレイ。

 この娘は不健康なのではと疑うほどに肌も白く、不思議な雰囲気をかもし出してるが、中身は……うーん、まぁ不思議ちゃんかも。


「出来るよ。でも、その為に自分を傷付けたのなら……オコだよ?」


「いやいや、フレイも魔力が必要だろ?俺は【哀傷あいしょう】で傷の痛みはないから、治癒で癒やしてくれればなんともないからさ」


「むぅ、ずっこい事を言う……」


 他の人は痛みもあるからな。俺が最適なのさ。

 勿論、普通に怪我とかしている人が居たら、命令はさせてもらうけど。


「お前は俺の命令がないと治癒しないだろ?」


「それが精霊だから」


 そうだな、もう慣れたよ。

 だからフレイの魔力を補充する為には、俺の傷を癒やすのが一番いいのさ。


「なら、魔力はらを満たして俺を手伝ってくれ。これは大事なことだからさ、フレイの治癒の力をこの石……【ヌル】に注いでくれ」


「え、キュアは不要……??」


 心配そうな顔で俺に近付き、きゅっと服を掴む。


「違うって、そうじゃなくてな」


 不安を与えちゃったか。

 確かに、治癒の力を【ヌル】に注ぎ、それを誰でも使えるようにするって言ってるんだもんな。

 これは、配慮が足りなかったな。


「ごめんな、でも俺も少し考えてる事があるんだよ。この【ヌル】に注いだ元の力は、誰がなんと言おうとフレイの力だろ?もしかしたら、還元できるかも知れないんだよ……この【ヌル】を使用したら、その魔力がフレイにたくわえられるようにさ」


 世界の魔力循環じゅんかんは、このデバイスを介して集積出来る可能性が高い。

 その為の【アセンシオンタワー】であり、その為の住民登録だ。

 違法で購入をされる可能性は否定できないが、それでも魔力を回収できる。


 精霊が作り出した物品は、基本的に複製不可能だと判明している。

 それは俺の【複写ふくしゃ】でも無理で、精霊と転生者の能力は干渉しないんだ。

 そもそもの構造が違うらしく、魔力や神力をとはまた違った力、精力……いやいや絶対に違う。そのまま精霊力の方がいいか。


「それはいいけど……でも」


「不安はまだあるかも知れない。だけど、それでもやる価値はあるんだよ」


 フレイウィ・キュアは、この世界に初めて誕生した回復術を使える存在。

 その力の量産だ。勿論、皆を守る為の、世界を平和にする為の力だ。


「――うん。わかったよ、ミオ」


 フレイは【ヌル】を手に取り、左手に置いて右手をおおい被せる。

 パァ――と光りは輝き、部屋に拡散する。

 そしてゆっくりと、光は元に戻るようにフレイの手元に集まっていく。


「すげぇ」


 やっぱり人類とは勝手が違う。

 注入されるのは俺から吸った魔力なんだろうが、フレイから発せられた瞬間に変わる。精霊の力……そのまま精霊力だとして、それが明らかに俺たちとは違う存在だと理解できる。


「……ん、これでいい?」


「出来たのか?」


 俺に向けて完成した【ヌル】を見せるフレイ。

 少しだけ不安げに、俺を見上げる。

 上目遣いでジィ……と。


「見せてもらうな」


「ん」


 手に取った瞬間――


 流れる奔流ほんりゅうが、手の平から全身に伝わる。

 精霊の力の塊、それが一気に脳内を駆け、【ヌル】の情報が伝わる。


「……マ、マジかよ。な、なんて代物だ……」


 レベルが違う。

 神の道具?【創作そうさく】?

 これは違う……違いすぎる。


「ミオ。この石だけだと意味はないけど……それ・・があれば使えるんでしょ?」


 フレイは台に置かれたデバイスを見て問う。

 そうだな。使えるはずだ……この完成した【ヌル】を手にして、余計に実感する。


「ああ、最初の違和感はあるだろうけど……これは誰でも使える。魔力……じゃなくて精霊力は【ヌル】から発生するからな」


「だね。キュアの力が出てるの、なんか変な感じだよぉ」


 この【ヌル】にフレイウィ・キュアそのものが封じられたようなものだからな。

 だけど、全部の力を使えるわけじゃない。当然の制約だが、【治癒の精霊】でなければ使えない力はある。


 そこら辺を、まだまだ考えなければならないんだ。

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