エピローグ1ー1【正式発表1】



◇正式発表1◇三人称視点


 ミオ・スクルーズの孤軍奮闘から数日が経過した。

 成長拡張型多目的端末――【AROSSAアロッサ】は、取り敢えずの完成を果たした。

 現在は、ミオ・スクルーズ以外のメンバーが主流となり、そのテストを数日にかけて繰り返している。


「ねぇミオ、この【AROSSAアロッサ】さぁ」


「なに?姉さん」


 文句でもあるのかと、ミオは小さな姉に見下ろして言う。

 その姉クラウは、【AROSSAアロッサ】を片手にこう言う。


「……カメラとかないわけ?」


「は……カメラ?あー、そう言えばないかも」


 その言葉に、ミオは鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべた。


 【AROSSAアロッサ】には、【ルーマ】での通話機能、身体成長補佐、能力&魔法の使用権限、精霊力の行使といった機能が搭載されている。

 しかし、クラウの言う通りカメラ機能は搭載されていない。


 そもそも、ミオは不必要と考えていた――何故なら。


「写真を撮るという行為に、まったくの疑問を抱かなかった……」


 絶望の表情で天を仰ぐ青年。


「物悲しいわね」


 それは前世での経験談だった。

 ミオ・スクルーズ……武邑たけむらみおという男は、スマホで写真を撮るなどしてこなかったのだ。だから【AROSSAアロッサ】にも必要とは思わなかったのだ。


「……女性客の需要を考えれば、必要だったかも」


 目を細めてうなるミオに、反対側の隣から白金髪プラチナブロンドの女性が顔を出し、【AROSSAアロッサ】を見て言う。


「――それもだけど、任務とかでも使用できるんじゃない?軍人も御用達ごようたししたい性能よ?この【AROSSAアロッサ】は」


「……うぐぐ」


 帝国皇女セリスの言葉に、更にうなる。

 製品としての需要、軍装備としての需要。

 両隣から立て続けに指摘され、ミオも考える。


 一旦の完成を果たしたとは言え、未だに途上。

 それは開発者のミオも理解している。あえてそうしたという意図もある。

 しかしながら、撮影機能を失念していたのは悔しかった。


「地球では当たり前についてる機能を忘れるとは……なんて情けない奴だ、くそぅ」


 肩を落とし落胆するミオの両肩を、左右から叩く二人。


「前世での悲しい経験が活きたわね」


「私も前世では、カメラとか使わなかったしね」


 なんて悲しいなぐさめだろうか。





 ミオが二人になぐさめられているその正面では、【AROSSAアロッサ】の実験が行われている。

 現在は……【ヌル】の使用頻度による疲労感の検証だった。


 人員は……【帝国精鋭部隊・カルマ】の二人。

 ロイド・セプティネとゼクス・ファルゼラシィだ。


「「【AROSSAアロッサ】起動!」」


 男二人で向き合い、まるで今にも戦いを始めようとするように。


「起動確認。本体の魔力循環じゅんかんも最適……【Mキューブ】の使用率も悪くない、ゼクスはどうだ」


「僕の方も安定してますよ。続けて【ヌル】の使用に入ります」


「了解だ」


 二人は、内蔵された機能のチェックを行っている最中だ。

 【AROSSAアロッサ】起動というワードで動き始め、内部の【Mキューブ】に貯蔵された魔力を消費して使用継続が可能される。


「ミオが改修した【Mキューブ】……いや、これではキューブではなくスティックではないか?」


 ロイドが【AROSSAアロッサ】を横に傾けて確認する。

 スマホのペンを差すような箇所に、【Mキューブ】が差し込まれている。

 その形状は、ロイドが言うように棒状……取替が可能に設計し、再使用を可能とした。


「でもこれで連続使用も可能なんでしょ?」


「ミオによれば、この【Mスティック】を一本で五時間可能だと……ただし、【ヌル】の使用や魔法の使用で継続時間は変わるそうだ」


「凄いですね。僕が生きてた頃の地球は……まだ黒電話でしたよ」


「……俺もだ」


 二人もミオたちと同じ転生者だが、死んだ年齢が違う。

 ミオは三十歳と比較的若く死しているが、大概の転生者は天命をまっとう……つまり高齢で死亡しているのだ。


「――殿下は……ひぃっ!!」


 ゼクスが不用意なことを口にしようとした瞬間――殺気。

 三人で仲睦まじく会話をしていると思いきや、セリスから威圧が飛んできた。


「……ゼクス・ファルゼラシィ?あまり余計な事を考えていると、首が飛ぶわよぉ〜??物理的にねぇ〜!?」


 セリスは皇女らしからぬ仕草で、親指を首に一閃する。


「――す、すっみまぁせっんどぅえしたぁ!!」


 滑舌が馬鹿になったのでは思うほどの謝罪をするゼクス。

 それを見て、ミオたちも笑っていた。


「馬鹿なことをしてないで、【ヌル】を発動しろゼクス。俺は終わったぞ」


「えっ早!!」


 焦りながらも、ゼクスは【AROSSAアロッサ】に装着された【ヌル】を発動させる。二人には、ミオからブロンズの【ヌル】が渡されていた。


「行きますよ、ロイドさん!!」


「遅い。俺はもう発動手前だ……【ファイア】!」


「おわっ……くっ、【ブラスト】ぉ!!」


 ロイドは炎の【ヌル】。ゼクスは衝撃の【ヌル】だ。

 互いにランクは同じ。しかし駆動はロイドが圧倒的に速かった。


 この光景を見ているミオは言う。


「流石は魔族、いや魔人だな。魔力の練りは格別に速い……【ヌル】の発動には個人差がある……なるほど」


 メモをするようにつぶやく。


「【ヌル】のランクが同じ場合、使用者のスキルが試されるってわけね」


 ミオの隣でクラウが言う。

 その言葉通り、同ランクの激突ではあったが、ロイドの炎が競り勝ちゼクスに降りかかる。


「――うあっちぃ!!」


 衝撃は炎を吹き飛ばすが、消しきれずに……といった結果だ。


「うん。いい感じに発動できてる……ロイドさん!倦怠感けんたいかんとかないっすか!?」


 ミオの言葉に、ロイドはメガネを直しながら。


「全くない。それどころか、この【AROSSAアロッサ】の【Mスティック】から魔力が代用されているからか、普段よりも動ける」


「僕もです!」


 ゼクスも同様らしい。

 それを聞き、ミオは安心したように肩の位置を下げた。

 そして「ふぅ」……と安堵の息を吐き、一先ずの結果を得たのだった。

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