1ー44【打倒クロスヴァーデン商会1】



◇打倒クロスヴァーデン商会1◇


 二人の些細なお出かけも終わり、俺はアイシアを【四神教会ししんきょうかい】に送り届けると、案の定エリアルレーネ様がご立腹だった……だったのだが、急いでいるのでごめんなさい!とだけ告げて逃げてきた。

 プンプンと頬をふくらませる姿が目に浮かぶよ。後で謝るから。


 俺はその後、直ぐ様【アセンシオンタワー】の四十二階。

 通称【工房】と呼ぶ事にした場所へ向かう。


 今日だけで……


 通信魔法の為の【ルーマ】のコア。

 魔力を組み込み循環じゅんかんさせる【銀星鉱石シルヴァライト】。

 自身を成長させる為の【Aキューブ】。

 そして素体を作るためのアルミニウム……によく似た金属を手に入れた。


「うっし。やるかっ!」


 南、【ラウ大陸】にウィズがいる可能性も含めて、今日は本当に大収穫だった。

 モチベーションが爆上がりだ。決して二徹のテンションって訳ではない……よな?


「ユンさんから先行して貰ってきたアルミを、【無限永劫むげん】で成形――形は、可変式!」


 台に置いたアルミに【無限永劫むげん】をかけ、形を整える。

 まずは折り畳み式でいいだろう。二画面で、魔法と成長を補助する感じが良い。

 二つに分割をし、結合させる箇所は別のパーツ。

 他にも材料は沢山必要になりそうだが、まずは試作。


「【銀星鉱石シルヴァライト】は数個を連結させ、循環する部分と、貯蔵する箇所を設置。【ルーマ】のコアはチップ状にしてはめ込む」


 回路も作らなければならないが、魔導電気が作れたならそれも可能だろう。

 それに、精霊と契約する事を考えれば、その契約面での成約も、このデバイスに組み込めれば。


「【Aキューブ】は、最近試作で創ってる……能力を封じ込められるタイプ。おっと、もしかしたら魔法もこれでいけるか……そうなるとっ」


 能力をそれぞれ変えられる、魔法も選んで使える。

 これはかなり、戦略性に幅が出るぞ。


「――【創作そうさく】!【無限永劫むげん】!【創作そうさく】!【無限永劫むげん】!【創作そうさく】!【無限永劫むげん】!!」


 パーツを創り出し成形。

 内部構造だけは、どうしても知識量が足りない。

 これがPCなら多少時間があれば組めるのだが、異世界で魔法なんてものを組み込んだ機械……簡単に出来るわけがないんだ。


「ふぅ……いい感じだ。ふふふふふ……はははははっ」


 テンションがおかしい。

 寝てないとこうまでおかしくなるっけ?


「……」


 視線を感じた。

 なんか呆れるような、通り越して心配するような視線を。


「ん?……あっ」


「……」


 冷めるような、何か残念なものを見るような目だった。


「あ、あははは……見てた?」


「――ああ。実に面白いものだったぞ」


 冷めた視線のまま、俺に声をかける男性。

 カツカツと音を鳴らし歩いて、台の上の素材たちを見る。


「……石は組み込まないのか?」


「石……か」


 この見慣れない彼は、新たに加わった精霊だ。

 【アルテア】に参加してくれていて、もう契約者もいる。

 灰色の長髪に長身、気怠けだるげなタレ目。細身の身体をした精霊。


 名は――


「ナイズはどう思う?」


「俺は、石を生み出す・・・・・・ことしか出来ない。力を加えるのはお前の仕事だ」


 クールなのよこの男。

 この男……ナイズ・ストーンは下位精霊だ。

 ストーンと言う通り、石の精霊なのだが。


「ナイズは戦闘向きじゃないんだよな」


「ああ、俺は……このように」


 ナイズは魔力を収束させて、手の平に石を生み出す。

 その石は、道端に落ちている石ころのように見えて……実は違う。

 表面はキラキラときらめいている。


「こうして、【ヌル・・】を生み出すだけだ」


 【ヌル】。何者でもなく、何を示す訳でもないという、そういう意味合いの言葉。

 このナイズ・ストーンが生み出す石には、何の効果もない。

 ただし……使用者によっては力を封じ込める事が出来る。

 だから【ヌル】。何かではなく、何かになれる存在。


「つまり、ナイズは【ヌル】をこのデバイスに組み込めって言いたいんだろ?」


 遠回しに言うんだよ、この精霊。

 契約者に似てますね。


「――ジェイルも同意するだろう」


 そう、ナイズ・ストーンの契約者は、ミーティアの片腕でジルさんの弟。

 エルフ族の王子……ジェイル・グランシャリオだ。

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