1ー43【反撃の口火10】



◇反撃の口火10◇


 金銭取引は後程のちほどとして、俺とアイシアは倉庫から退散する。

 外に出ると、アイシアは待っていたかのように切り出す。


「ミオ、あのね」


「ああ、どした?倉庫に入る前から海を気にしてたけど」


 いや、海というより……地平線なのか?

 それより先、南の方角は……【ラウ大陸】か。


「うん……なんだか、気配がするの」


「気配?一体何の」


 俺も海を見てみる。

 今日は波も穏やかで、潮の香りが心地良い。

 若干、肌がペタペタするが。


 見る限りでは、何も変わった気配はない。

 視野に入る情報も、何ら変哲のない海だ。


「それがよく分からなくて……だから混乱するのよね、なんだかあたしと同じ感覚な気もするし、違う気もするし」


 アイシアと同じ感覚?

 それってEYE'Sアイズって事か?いや、でもEYE'Sアイズはもう生まれない。最後の【オリジン・オーブ】である白が、精霊キュアによって憑代よりしろにされてなくなったからな。


 だから、EYE'Sアイズは計五人で終了だ。

 それ以外で似た感覚?なんだ……??


「う〜ん、なんだろうこの感覚、くすぐったいのよね……なんだか心の中をこしょこしょされてるみたいで」


「心の中って……」


 俺の【感知かんち】には、一切の反応はない。

 アイシアだけが感じられるのか、それとも何か別の……別?


 俺もアイシアも再度海を見るが、まったく分からない。

 アイシアは目を閉じて「むむむ……」とうなっている。


「【アルテア】に居た時はなんともなかったんだけどなぁ」


「ああ……【アルテア】には風の結界があるからな。だから、【アセンシオンタワー】で登録してある……」


 何かピンと来た。


「?……ミオ?」


 【アセンシオンタワー】には、固有魔力を登録できる装置がある。

 俺や女神たちを始め、住人たちにはそこで登録をしてもらう事で、【アルテア】に住んでいるという証拠になるという訳だ。

 まぁ、簡単に言うと住民登録みたいにしている訳だが……


「アイシアにしか感じられない力……つまり、【アルテア】で登録していない気配」


 試した訳じゃないが、もしかしたら。

 俺に出来ないではなく、アイシアたち・・にしか出来ない事なら。


 そう、【アルテア】にまだ来ていない、あいつの存在。


「――まさか、ウィズの感応波か……?」


「え!?ウィ、ウィズ……この感覚が?なんだか前と全然、ううん……別人・・に感じるけど」


 その言葉に俺は。


「っ!……そうか!!ウィズはアイシアと同じ、この世界に生まれた新しい神だ!俺とのリンクはもう切れて使えないけど、【オリジン・オーブ】を持つアイシアたちには、遠くからの気配が伝わる!だけど、二年前にウィズは姿を持ち、その感覚も固有のものになってる!」


 そうか、アイシアにしか分からない感覚だが、それが変わっていればアイシアも戸惑うはずだ。


「じゃあ!海の向こう……【ラウ大陸】に!?」


「ああっ、【ラウ大陸】にいるんだ……ウィズの奴がっ!!」


 二年間探し回って、ようやく見つけた痕跡こんせき

 EYE'Sアイズにしか分からない念話も、この場所に来なければ気づけなかった。


「そう言えばこっちまでは、他のオーブ所持者……ティアともセリスとも、リアとも訪れてない。だから気づけなかったんだ」


 アイシアは腕組みして、考える。


「言われてみれば、このチクチクする感覚……ウィズっぽいわ」


 妙に納得がいくセリフだなぁ、アイシア。

 だけど、本当にここに来れて良かった。

 アイシアとも昔みたいに話せるようになったし、アルミニウムなんて有能な素材も手に入って、しかも探し続けていた相棒の手がかりまで。至れり尽くせりじゃないか。


「……ミオ、笑ってるね」


 アイシアに言われて気付く。

 どうやら口端が引きる程に笑っていた。


「え……ああ、笑顔にもなるさ!アイシアとも元に戻れて、ウィズまで見つかったんだ!それに、アルミで作りたい物も沢山出来る……最高の一日だ!!」


 「ならよかった」と、アイシアも笑顔に。

 帰ったら、早速作業に入ろう。


 【コメット商会】反撃の口火を切る……携帯成長補佐型魔力通信回路。

 創ってやるよ、銃器に負けない商品を!!

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