1ー39【反撃の口火6】



◇反撃の口火6◇アイシア視点


 大事なお仕事や家族の付き合いでは普通にしているけど……こうして、あたしと二人きりにならないように計算していたんだと思う。

 上手く立ち回って、少しでもミーティアに負担をを掛けないように……でもね、ミーティアはそんなに弱い女じゃ、ないよ。


「うん、今まではそれでいいんだよ。ミオからすれば、ケジメって事なんでしょう?でもねミオ……出来ればあたしは普通にしたい。幼馴染なのは変わらないんだし、ミーティアだってきっとあたしとミオの関係が壊れるの……望まないよ」


 いつだって、ミーティアは恋と夢……両方を追いかける女の子だった。

 だけど、他人を思いやる気持ちも持てている……優しい人。


「――分かってる、分かってるさそんな事。だけど俺は、そんなに器用じゃなくて」


 ミオを気付いている。

 ううん、きっとミーティアにも言われているんだと思う。

 あたしと仲良くして欲しいって。昔のようになれないかって。


「うん、知ってる」


 視線をそらしてうつむき、ミオは地面を見た。

 そこにはきらめく何かがあって……多分、ミオが探しているような鉱石なのだろう。


「でも俺は、不器用な訳でもない……中途半端なんだよ。こんな感じでさ……」


 言葉を述べながら、ミオは鉱石を回収。

 やらなくちゃいけないことはしっかりやってる……そういう所、なのよね。


「ミオは気にし過ぎなのよ。あたしはそれでいいって言ってるのに」


「きっちり区別出来れば良いんだけどさ、悪い……こんなんで」


 大人になって、考えることが沢山増えた。

 でもミオは、良い意味で変わらない。変わらないようにしている。


「別にいいけどね。それがミオだし、あたしだし」


 無理に変わろうとは、あたしもしてない。してないつもり。

 女神に成るって決めた時に、性格とかも思い切り変わってしまうんだと思ってたけど、アイズさんが消えずに残った事で、あたしはあたしのままでいられている。


「でも、これからは普通に戻ろうよ。ミオはあたしを避けないで、あたしは昔のように……ミオに接するから。幼馴染の、アイシア・ロクッサとして」


「だ、だけどさ」


 ねぇミオ気付いてる?

 あたしとミオの関係が崩れたこと、一番気にしているのはミーティアなんだよ?

 彼女は、自分のせいで幼馴染としての関係まで壊れたんじゃないかって思ってる。


 だからミオにもあたしにも、あんなにも恐る恐る声を掛ける。

 怖がりつつも、普段と……昔と同じようにしようと心がけて。


 だからあたしは、ズルい事をする。

 スゥーと息を吸い、呼吸を整えて……言う。


「――あたしは【女神オルディアナ】……【アルテア】の管理者ミオ・スクルーズ。これは、神託ですよ?」


「ぐっ……ぐぐぐぅ……」


 苦汁を舐める勢いの顔をするミオ。

 ズルいけど、これも未来の一つ。ミオはルールに弱いから。


「はぁ……分かったよアイシア。【女神オルディアナ】の神託、謹んでお受けする」


 諦めるように、ミオは顔の緊張を解いた。

 この鉱山跡に入る前からの強張った表情を、ようやく緩めてくれた。

 ごめんね、でもあたしは……ミオの頑固より、ミーティアの優しい願いを叶えたいから。


「これでいいかい?アイシア」


「ふふふっ。うん、いいよ!元通りだねっ」


 あたしは笑顔をミオに向ける。

 ミオは困ったような、安堵したような顔をした。

 怖かったのはあたしだけじゃない。ミオもそうだったんだ。


「敵わないよマジで、もしかして未来でもたのか?」


「ううん、てないわよ?ミーティアに事前に話して、賛同を得たと言うか……ミーティアの願いを叶えただけ」


「……ティアが、そっか」


 何か悟ったように、手にした鉱石を見つめるミオ。

 さぁ……これでしみったれた話はお終い。

 ここからまた、あたしたち二人は幼馴染だ。


「それ、お目当の物でいいのかな?」


「ん〜……どうかな、なによりちっさいからなぁ。まぁ【無限永劫むげん】でサイズは変更出来るし、あとは性能かな」


 手の平で転がる程の大きさ。

 銀色の鉱石……銀鉱石かな?


「――これは【銀星鉱石シルヴァライト】って言う、魔力を溜め込む事ができる石らしい。大昔はこれが大量に採掘さいくつできたらしいんだけど、ご覧の通りさ」


 本当に小さいわ。

 それに、ミオが地道に掘った物は……全部欠片のようになっている。


「ま、一つでも掘れれば結果は同じ。俺が【無限永劫むげん】で大きくして、【複写ふくしゃ】で増やせば良いんだけどな」


 だから、目的は達成?


「じゃあ帰る?」


「そうだなー……」


 ミオは少し考えるような素振そぶりで。

 しかし先程とは打って違うような笑顔をあたしに向けて、こう言った。


「――折角だし、もう一箇所回りたい。いいかな?」


「うん、いいよ」


 幼馴染として、二人を応援すると決めたあたし。

 またこうして関係を修復できたのも……ミーティアのおかげだ。

 あたしは二人を、永遠に守る。


 あたしの真実の名……【慈愛神オルディアナ】の名に誓って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る