1ー38【反撃の口火5】



◇反撃の口火5◇アイシア視点


 あたしの名前はアイシア・ロクッサ。

 ミオの幼馴染で、元許嫁の村娘だ。

 だけど現在は、三国国境の村【アルテア】に誕生した女神……【慈愛神オルディアナ】として生きている。


 普段は【四神教会ししんきょうかい】で、村人たちの悩み事や相談を受け、ほんの少しだけアドバイスをするといった仕事をしている。

 女神としての能力――【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】で未来をて、そして大きく未来が変更されない程度に助言をする。


 先輩女神エリアルレーネ様に忠告もされているので、極力だいそれた事は言わないよう心がけ、日々が少しだけ幸せになるように……願いを込めて。


「ねぇミオ」


「ん、どした?」


 ぼんやりした顔で暗闇にライトを照らす青年。

 明るい金髪に緑色の瞳。身長も高く、あたしが見上げるには首が痛い。

 もう二十cmセンチ以上は違う。子供の頃は、そんなに変わらなかったのに。


 そんな彼にあたしは聞く。


「ミーティアとは最近、どう?」


「――ぶっ!!な、何急に!ビックリするなぁ」


 赤くなって戸惑う、あたしの幼馴染。

 ミーティア……それは彼の恋人の女性。

 あたしの元ライバルという事になるんだけど、でもそれは、あたしが望んだ未来だから。


「急でもないでしょ。ミーティアも忙しいし、なかなか聞けないんだもん」


「だ、だからって俺に聞くかぁ!?それにアイシアは……一応許嫁だった訳で、言いにくいっての!!ってか言えるか!」


 あー、そういう理由だったんだ。

 確かにそうだし、今でも気にはなる……正直に言えば。

 でも、あたしは既に選んだ。この世界を、この【アルテア】を守っていくと。

 だからその第一の対象は……このミオとミーティアの二人、そしていずれ生まれてくる、二人の子なんだ。


「まったく。まだ気にしてるのぉ?あたしはもう吹っ切ってるのに……あぁ情けない」


 少しだけ嘘。

 こんな風にあおるように言うのも、ミーティアとの仲を進展させるため。

 あたしが昔た未来の光景に、もう直ぐ追いつく……現在のミオの姿を見れば、それが近いと判断できるから。


「そ、そんな事言われてもな。俺だって真剣に考えてんだけど……」


 ねるように、ミオは「ここら辺でいいかな」と掘削くっさくを始める。

 あたしはミオの隣にかがみ、その様子を見届けている。


 ガガガ……ガガガガ。


「でもさ、こんな場所に、まだ貴重な鉱石が残ってるのかなぁ?」


「さぁな。探さないよりマシだろ」


 素っ気なく言うミオ。


 あーこれ怒ってるわね。

 視線を合わせようともしないし。

 ちょっと意地悪しちゃったかな。でも、あたしはやめないよ?


「この調子で、指輪を作る鉱石でも探ってみる?ミーティアにプレゼントする為の」


「……アイシア、ちょっと黙ろうか」


 ふふっ。ここまで怒ってるのは、それだけ本気だから。

 普段、他の人相手だと顔に出さない性分のミオだけど、あたしの前では少し違う。

 感情も出すし、嫌な顔もする。いつもの優しい顔も台無しのレベルで。


 それだけ共に過ごしてきたし、見てきた。

 それだけ好きだったし、それだけ……ミーティアの事も大切だから。


「黙らない。ミーティアの為に、あたしが出来ることをする」


「だぁかぁらぁー!」


 ガガガ――バキッ!!


「「あ」」


 小型の掘削くっさく装置が壊れた。

 ミオが力を込めすぎたんだわ。


「アイシアのせいだからな!ったく、変なことばっかり聞いてきて!この掘削くっさく作業だって、趣味でやってんじゃないんだぞ!?【コメット商会】で販売する商品を完成させる為の素材集めなのに、アイシアが邪魔するから!」


「……ふふっ」


「――な!何笑ってんだよ!」


「ごめん、なんだか昔見たいで……面白くて」


 これはあたしの本音だ。

 少し違うのは、今までのあたしだったら、ミオにそんな事を言われて、逆にいじけて泣いちゃうところかな。

 そしてそれは、ミオも同じだったのか……力が抜けて、ううん。反省したような顔で言う。


「――あ。そ、そうだな……昔はこうして、今みたいにアイシアをないがしろにしてた」


 昔の事を思い出してか、ミオはバツが悪そうに視線を逸し、頭を掻く。

 分かってる。うん、分かってるよ。

 ミーティアと恋人になってから、ミオはあたしを避け続けていたから。

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