1ー2【行方知れずの相棒2】



◇行方知れずの相棒2◇


 直ぐに夜になり、テントでスヤスヤと眠るミーティアを寝かせたまま、俺は外に出て観察をしていた。


「……反応はないんだがなぁ」


 だけど、ほんのかすかに感じる波動。

 これは俺にしか分からない、ウィズのご主人様だからこそ分かる波動だ。


 その軌跡きせきは、【ステラダ】からを描くように名残を残している。

 実に数カ所。その数は多く、ここ公国や帝国……そしてその先にまで。


「海、か」


 最も近い反応は、公国の南か。

 そこは小さな漁村の港。その先は……魔族が多く存在する【ラウ大陸】だ。


「反応は極小、しかも超希薄。確証もないのにどうやって探せと……はぁ。ウィズの奴、いったい二年も何してんだか」


 ウィズは身体を得ている。

 だからもう俺の中に戻ることは出来ない。

 唯一繋がりがあるのは、【オリジン・オーブ】と呼ばれる神器アーティファクトを所有する女性たち……アイシア、ミーティア、セリス、リアの四人。

 彼女等(ミーティア以外)はEYE'Sアイズと呼ばれ、次代の女神を選別するという、神の遊戯の犠牲者だ。


「【オリジン・オーブ】の所有者にだけはウィズの声が聞こえる。だけどそれも今はない。消えた感じはないって皆は言うし……無事ではあるはずなんだ」


 夜空に向けて手を伸ばす。

 星を掴み取るように、拳を握ると……テントから。


「……ミィオ〜〜〜〜ねぇ〜〜」


 猫撫で声で、愛しい者を探す。


「おっと。起きちゃったか」


 立ち上がりテントへ向かう。


 なぁウィズ。お前は今、何処で何をしているんだ。

 あの転生者……赤メッシュ、じゃなくて、レイモンド・コーサルって男も一緒なんだよな。二年間大陸中を探しても見つからない、俺の相棒。

 【アルテア】の未来を担う神の一人……【叡智えいちの神ウィズ】。


 あいつは必ず俺たちの所に戻って来る。

 信じるしか無い。そしてその間は、必ずや【アルテア】を守り抜く。

 村だけじゃない。人も、文化も、歴史も……全て、守って見せるさ。





 ミオがいる場所から遥かに離れた場所……ここは、【ラウ大陸】。

 魔族が生まれた大陸であり、戦いが常に起きている修羅の大陸だ。

 通称を――魔大陸と言う。

 魔の者がひしめき、殺し合い奪い合う。そんな地獄のような場所だ。


 直向ひたむきに、ただひたすらに。

 己を鍛え、己を殺し、そして精錬されていく……それが、魔族。


 しかしそれだけではない。

 魔の者は、何も魔族だけではないのだから。


 魔物。


 【ラウ大陸】には、そこかしこに【魔力溜まりゾーン】が存在し、そして常に魔物が出現する。今も、立て続けに。

 そしてその魔物たちから、逃走する一組の男女がいた。


「くそがぁっ……また来やがったぞ!」


 黒銀の髪に赤いメッシュが入った、少し粗暴そぼうな男が叫んだ。

 それに合わせて、後方にいた女性が声を上げた。


「――了解。紋章展開、【自動追尾雷撃槍オートブラスト・サンダースピア】!!」


 水色の髪の女性がつぶやくと、周囲に黄色の紋章が浮かぶ。

 回転するように腕を回すと、そこから発生したのは無数の電撃の槍だ。

 オートと言うだけあって、発動直後……電撃の槍はターゲットへ向けて飛翔する。


 ズガガガガガッ――!!


「スゲェな、相変わらず。これが神の力かよ……」


 赤メッシュの男、レイモンド・コーサルは感嘆かんたんの声を上げる。

 水色の髪……神秘的な雰囲気をかもし出す女性は、ミオたちが探す存在――ウィズだ。


「迎撃完了。魔石は回収して下さい、赤メッシュ」


「……おぅ」


 不服そうにしながらも、コーサルは倒した魔物が変質した小さな石を回収する。

 一粒一粒丁寧に掴み、小袋に仕舞う。さながら回収屋だ。


「にしても、この【ラウ大陸】ではやっぱり魔物は消えねぇんだな」


「はい。【魔力溜まりゾーン】が濃すぎるのも影響しているでしょうが、やはり精霊の影響が一番の理由でしょう。ご主人様……ミオが解放した精霊という存在が、この世界を大きく変貌させましたから」


「けっ。なら早いとこ合流しねぇとな。じゃないといつおっんでもおかしくねぇ」


「心配は無用です。ミオは――」


 ミオの心配は無用だと、ウィズは言おうとしたが。

 コーサルの意図は違ったようで。


「あの金髪じゃねぇよ俺だよ!!」


「……そうですか」


 こうして二年もの間、ウィズとコーサルは【ラウ大陸】に居た。

 その理由を――しばし語ろう。

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