【青年期の始まり】編

1ー1【行方知れずの相棒1】



◇行方知れずの相棒1◇


 冬を超え、今春が訪れる少し前の季節。

 そんな中途半端に寒い季節に、俺は最愛の人……ミーティア・ネビュラグレイシャーと共に、各地を飛び回っていた時期の話だ。


「……やっぱり、ここにも居ないわね」


 長い青髪に、同じく青く大きな瞳。

 髪は光によって水色にも紺色にも変色し、いわゆるインナーカラーにも見えるだろう。髪は星柄のリボンで両サイドから集め後ろでくくられ、ハーフアップと呼ばれる髪型になっている、可愛い。

 そう、俺のウルフテールとお揃いなのだ。


「そうだなー。ったく、何処どこ行ったんだよウィズのやつ」


 ここは、公国の東にある森林地区だ。

 もう少し進めば小国との国境に迫る、【アルテア】からはかなり離れた場所だな。


 俺とミーティアの目的は、二年前の戦い以降……行方をくらませた俺の相棒、ウィズの捜索だった。


「これで公国全土は捜索終了ね……」


 ミーティアはするどい視線で景色を見つめる。

 彼女は彼女で探しているんだ。父親、ダンドルフ・クロスヴァーデンの足取りを。


「……そろそろ見つけないとな」

(色々と、な)


「そうね」


 元々は俺の能力であった【叡智ウィズ】。

 ウィズには二年前の戦いで神化をしてもらい、完全独立型の能力として、【アルテア】を導く神となって貰う手筈だったのだが、こうして行方不明だ。うまく行かないものだよな。


「そう言えばあいつ……ヨルドは今、帝国内を捜索中だっけ?」


「傭兵の彼ね。ええ、二年でまだ半分も行けてないらしいから……やっぱり帝国の広さは凄いわよね」


「まぁ国内で時差のあるレベルの範囲があるからな。そっちの捜索はヨルドに任せるとして、次は」


 二年のうちに、俺が行けるところまでは範囲を広げた。

 帝国内も半分までは能力――【転移てんい】で移動可能になったが、最西端の帝都までは、実はまだ行ってなかったりする。行きたくなかったりする。

 帝国皇女セリスの父、バルザック・セル・オラシオン・サディオーラス皇帝陛下からの招待状……何枚来たっけなぁ。


「北の女王国ね。あの日から、命を止めた国……崩壊した、死の国」


「……そう、だな」


 あの日、女王シャーロット・エレノアール・リードンセルクを打倒した日。

 世界に精霊という種族が解放された。

 今や世界から受け入れられた新種族だが、その解放の原因は俺にある。


「アリベルディ・ライグザール……彼も父も、いったい何処へ消えたのかしら。もう二年になるのに、足取りさえ掴めないわ」


「ティア……」


 深く考えるような素振そぶりで、ミーティアは目を閉じ深呼吸をする。

 これは、ミーティアが自分を落ち着くかせるために見つけた方法だ。

 よくある方法の一つだが、彼女には一つだけ違う点がある。


 それが、彼女の右足だ。


 俺が視線を移した瞬間には、右足から発生する凍気が地面を凍らせ、荊棘いばらのようにミーティアに絡まっていた。


「……すぐ帰ってこいよ?」


「――うん。ありがと、ミオ」


 氷の荊棘いばらはミーティアを包むように広がり、そして全体を覆い殻のようになる。心も身体も閉じ籠もり、自問自答で己を律するすべ

 しかし代償もある。荊棘いばらから戻った後は、魔力の感覚が鋭敏になり過ぎて、非常に……その、色っぽく艶っぽくなってしまうんだ。


 分かりやすく言うと……肌の感度が上がって、吐息なんか漏らしちゃって、正直言って――ドチャクソエロい!!


「……」


 反省中だ。


 とまぁ、そんな感じの技だから、ミーティアは決して俺以外の前では使用しない。

 初めて使用した昨年の夏なんかは、その場に他の人たちも大勢居てだな……死ぬほど焦ったし、死ぬほど恥ずかしかったんだよなぁ、お互いに。


 そうして五分が経過。

 短時間で、ミーティアは荊棘いばらから解放された。

 先程言ったように、それはもう色っぽく吐息を漏らす俺の彼女。


「……平気か?」


「ぅ、ん……っは、ぁ……ん」


 くぅぅぅっ!たかぶる!!落ち着け、落ち着け俺!!


「それじゃあ少し休もうな。テント張るから、そこの切り株に座れるか?」


 休憩をうながし、今日はここでキャンプをするかと提案する。

 しかしミーティアは、俺の腕を掴み、上目遣いで。


「……やだ……抱きしめて?」


 語尾にハートマークが見える。

 瞳にハートマークが見える。

 空気感がハートマークで一杯だ。


 そんな訳ないって?

 巫山戯ふざけるな、俺には見えるんだよ!!


 ミーティアがこんなんだから、俺は獣になる頻度が増えたんだ。

 そう、これが今の俺たちの……関係性だ。

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