ここだと、私の声、よく聞こえる?

SE// 祭りの喧騒が遠くに聞こえる。


「あはっ、けっこう歩いたね。大丈夫? 疲れた?」


「あらら、汗だくだ」//ハンカチで汗を拭いてくれる。


「平気?」


「ほんとに?」


「そっか。若さだね。まだ高校生だもんね。無限大の体力だ」


「さぁ、座って。特等席だよ」//土手に座る。


「この場所はね、お祭り会場の反対側。

川を挟むから、こっち側はほとんど人通りもなくなるの」


「静かでしょ」


「そう、ライトアップされた川辺もよく見えるの」


「ここなら私の声、ちゃんと聞こえる?」


「そっか、よかった」


「土手が小高くなってるから、お祭りの会場がまるで箱庭みたいに見えるよね」


「ふふっ。君も、そう思う?」


「あの場所にいたら、すごーく広い世界に迷い込んだみたいに感じて、自分を見失いそうになっちゃうんだよね。


だれも知らない世界に迷い込んじゃったみたいに、不安になるの。


誰も、私の事なんて見てなくて……。


私の事なんか、誰も知らなくて……。


あれ? 私、ちゃんとここに存在してる? って、怖くなるんだ。


だけど、ここからあの景色を眺めてると、自分をちゃんと感じる事ができるの。


私はちゃんとここにいるんだーって。生きてるーって。


あれれ、なんだか変だよね。


意味わかんないよね? ごめん」


「へ? うふふ。そうなの! 実は私も、人混み苦手なんだ」


「んふふ。一緒だね」


「さ、お腹空いた。たこ焼き、食べよ」


SE// ガシャガシャと袋からたこ焼きを取り出す音。


「ふぉ、まだあつあつだ。


あっちっち。


ふぅふぅーーー、ふうふうーーーー。

あふあふっ、ほーほー、はふはふはふ……」


「ん~~~~~、おいひい」


「表面は岩塩が効いていいて、カリっと! 中はトロトロ。

これは、八兵衛堂っていう専門店が出してるたこ焼きでね……」


「あれ? 君は、食べないの?」


「そっか。


君は猫舌なのか、メモメモ……」


「貸して。冷ましてあげるよ」


「ふぅーーー、ふぅーーーー、ふぅーーーーーーーー、ちゅっ」//唇がたこ焼きに触れる音。


うん! もう熱くない。


はい、あーーんっ」


「ん?」


「あーーんっ!!」

//口元にたこ焼きが迫る。照れを隠しながら、はむっと勢いよく口に頬張る。


「大丈夫? 熱くない?」


「そっか、よかった。

美味しい?」


「気に入った?」


「そうでしょう!


このたこ焼きだけを目当てに、この町にお買い物に来る人だっているぐらい、人気のあるお店なんだよ」


「今度、施設のおばあちゃんにも買って行ってあげるといいよ」


「うん。君は優しい男の子だね」


「そっか。おばあちゃんのこと大好きなんだね」


「優しいおばあちゃんだったんだ?」


//SE かき氷をガシャガシャとかき混ぜる音。


「ほっ? たこ焼きとマンゴーミルクのかき氷を、交互に食べるとは、君は変わってるね、あははー」


「意外と、いける?」


「そう? 私もやってみよ」


「ふぅふぅふぅ、はふはふ。


んー、このたこ焼き、何度でも、おいひいって言っちゃう。おいひい。


からの~、かき氷」//かき氷をかき混ぜる音。


//SE シャリシャリ音


「うん!! うんうんうん!! いける!!!」


「やけど気味の口の中とか喉を、冷たい氷が通過して、気持ちいい。


そして、冷たくなった胃が、また熱いたこ焼きを欲する。

無限にいけちゃうね」


「交互に食べるなんて、いい考え!

思いつきもしなかったよー。

これは、世紀の大発見と言っていいでしょう!


君は天才だね」


「そう言えば、マンゴーミルクのかき氷って食べた事ないなぁ、どんな味?

一口、もらっていい?


ありがと」


//SE シャリシャリ音


「あむ。


んーー!! 一気に南国!! 上品な味わい。高級感あるね」


//SE 笑い声




「いつの間にか、日が沈んだね」/優しく風が耳元を撫でる音。


「風がきもちいい」


「この辺りは、真夏でも夜はひんやりとした風が吹くんだよ」


「夕陽に照らされた、川辺のちょうちんも素敵だよね」


「そうだ、写真撮ろう」//スマホを取り出して、お祭りの景色を撮る。シャッター音。


「ね、一緒に撮らない?」


//SE インカメラにしたスマホを掲げて、隣にくっつく。


「じゃあ、撮るよ」//カシャ


「もっと笑ってー」


「もう一回」


「ねぇ、もっとくっついて」


//SE 更にくっついて、カシャ。


「うん、かっこよく撮れてる。ありがとう」


「メモしておこう。

2023年8月5日土曜日。

毎年恒例の村祭りで、君と初めてのデート。

八兵衛堂のたこ焼きは、かき氷と交互に食べたら最高!

君の好きなかき氷の味は、マンゴーミルク。


これでよし!」


「あれ? なんだか眠そうな目だね。お腹いっぱいになったら眠くなっちゃった?」


「へ? 昨日、緊張して眠れなかった?


あはは~、私もだよ」


「さっき、たくさん歩いたし、疲れちゃったよね。


少し横になる?


ここに頭乗っけていいよ」//伸ばしてる足。太もも部分をポンポンと叩く。


「大丈夫。誰も見てないよ」


//SE 言われるまま、川辺に体を向けて、横向きで頭を腿にのせる。キャップで顔を隠す。


「あらら、キャップで顔をかくしちゃった。


君は照れやさんだね」


//SE うちわでパタパタ、ゆっくり仰ぐ音。


//SE 髪を撫でる。髪を耳にかける。耳元が少しくすぐったい。


「もうすぐ、花火が始まるよ。それまで休憩~」


//SE 遠くに祭囃子の音。何度もゆっくりと髪を耳にかける音。優しくうちわであおぐ音。

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