君の好きな子は――
「ねぇ、寝ちゃった?」//耳元で明瞭な声。
「嘘?! 寝てないよね? 起きてるよね? ふぅーーー」//耳に息を吹きかける。驚いて肩がびくんと跳ねる。
「やっぱり起きてた」
「ん? 景色に見とれてた?」
「そっか……
私は君に……
あ、いや、なんでもない」
「景色って、日が沈むごとに、印象も変わるよね」
「ほーんと、ずっと見てられるなぁー」
「君のほっぺは、夕陽と同じ色だね」//耳に髪をかける音。
「この景色、何度も見ているのに、今日はなんだか、いつもの3割増しで素敵に見えるよ」
「どうしてだろう?
不思議だね」
「ねぇ、質問してもいい?」
「てつもんじゃないよ! 質問!」
「どうして? って……
君の事、もっとたくさん知りたいからに決まってるじゃん!」
「いい? じゃあ一つ目の質問です。
好きな色は?」
「へぇ~、赤か。情熱的だね」
「私? 私はね、黄色にピンク。赤も好きよ。白に、オレンジ。色々あるけど、憧れるのは黒!」
「そう、何物にも染まらない黒。かっこいいでしょ。」
「憧れるんだよね。
いつの日か、そんな人になりたいよ。
信念をしっかり持って、関わるもの全て自分の色に染めてしまうような……。
今の所、染められっぱなしなんだけどね。てへっ」
「じゃあ、次の質問ね。
好きな食べ物は?」
「へ? たこ焼き? 八兵衛堂のたこ焼き?」
「そんなに気に入ってくれたんだ?」
「これまでの美味しかった物、何もかもを上書きした?」
「それは嬉しいなぁ。
後でまた買いに行こ!」
「私はね、干ししいたけ」
「え? 変わってる? そうかな?」
「だってさ、干ししいたけって元はふにゃふにゃのしいたけなんだよ。わざわざカチカチになるまで干してさ、使う時は水に戻して……って、めっちゃ手間暇かかるじゃない?
その手間暇が、なんていうか、愛おしい。
無事、煮物になってくれてありがとう! って思う」
「煮物も好きなんだけど、その中に入ってる、干ししいたけが好きなの。
じゅわっと口の中ではじけるうま味が、最高!」
「じゃあ、次の質問いきます。いい?
好きな言葉は?」
「起きて半畳、寝て一畳……
しぶ~い!! それって、誰の言葉だっけ? 織田信長? 豊臣秀吉?」
「わかんないけど、その時代の人だよね」
「うんうん、わかる! コスパ大事」//笑いながら。
「私はねぇ……。
天下とっても二号半。
どんなに豊になっても、つつましく生きていきたいよね。
気が合うね」//笑いながら。
「え? 別に寄せて来てないよ」
「他に、好きな言葉?
んーとねー。
寝ても覚めても床の間。
つまり、1LDKで十分って事」
「じゃあ、次の質問ね。
好きな季節は?」
「夏、かぁ。
じゃあ、今、めっちゃ楽しいーーーって感じ?」
「そっか。
イベントも目白押しだもんね」
「夏と言えばフェスだよね。
何フェスがいいの?
ロックフェス? お肉フェス? 花火フェス? 海フェス?」
「海からの~、お肉からの~、花火からの~、ロックね~。
最高!!!」
「え? 私の好きな季節?
私はねぇ。冬!
夏も好きだけど、冬はもっと好き」
「温めるっていう響きというか、行為というか、そういうのが好きなの。
自販機のあったか~~いって文字とか、コンビニの冬限定肉まんとか、おでんとかの暖色系のポップ見てると、幸せな気分になるの。
あったかそうって言う雰囲気が好きなんだよね。
じんわり温かくなるオイルヒーターとか、健気に指先を温めてくれるホッカイロとか。
家族で囲む鍋とかさ。
雪がそぼ降る夜に、冷え切ったお互いの体を温め合う、とか!」
「あ、ごめん。
ちょっとエッチだった」//恥ずかしそうな笑い。
「じゃ、じゃあ、次の質問ね。
ネコ派? 犬派?」
「へぇ、ネコ派なんだ」
「ふぅん、なるほど。おばあちゃんが飼ってたネコちゃんの面倒みてるんだ。そりゃあ、ネコ派だね」
「私はね、亀派」
「え? タネじゃないよ!! 亀だよ、亀!!」
「飼った事ないんだけどね、飼ってみたい。リクガメとかすっごいかわいいじゃない?
知ってた?
亀のポテンシャル、半端ない。けっこう早く走るんだよ。
亀はのろいって、日本人の常識でしょ?
そのギャップに、萌える。
私の夢はね、将来リクガメを飼って、亀専用のリードを付けて、お散歩に行く事。それから、リクガメにお手を教える事。
想像してみてよ。リクガメのお手。
めっちゃかわいいよね」//とろけそうに
「そうでしょ!
君も見たいでしょ! リクガメのお手」
「こてじゃないよ。お手! お手だよ!」
「え? うさぎと競争させる?
いいねー! それ!
たぶんだけど……リクガメが勝つよ」
「君は、かけっこ速かった?」
「へぇ、体育祭では毎年リレーの選手だったんだ。すごーい!
速そうな脚してる!」
「この太ももとか、ふくらはぎとか……」//脚を指先でなでる。
「私はね、いつもびりっけつだったよ。とほほ……」
「だから、かけっこ速い人に憧れるな」
「じゃあ、やっぱり体育祭の競技では短距離走とかリレーとかが好きだった?」
「やっぱりそうか」
「私はね、体育祭自体が苦手だったけど、文化祭は張り切ってたよ。
今年の大学祭も張り切るつもり」
「私、文芸サークルに入ってるんだけど、サークルのメンバーで、コンカフェやるんだ。
遊びに来てよ!」
「そうコンセプトカフェ」
「メイドカフェじゃないよ」
「んとね、異世界カフェ」
「私はね、花の妖精のコスプレするの」
「背が小さすぎて、お姫様は無理だな。衣装がないよ」
「え? 妖精、ぴったり?
ふふ、ありがとう」
「君だったら……勇者が似合いそう」
「勇者のコスプレで遊びに来る?」
「君は勇者ペルセウスだ!
アンドロメダ姫を救うのだ!
あはははー」
「いいねー! 絶対! 絶対来てよ。約束だよ」
「私は勇者を導く妖精になるから。
勇者ペルセウスに、魔法かけちゃうかもよ」
「どんな魔法? って……。
それはね……内緒」
「え? ペルセウス神話に、妖精出てきたっけ、って?
さぁ? どうだろ?
語り継がれてる事が全てじゃないよ。
神話では語られてないかも知れないけど、当時はきっといたと思うよ。妖精」
「勇者に恋をしていたかもね、んふ」
「じゃあ、次の質問だよ。
あなたは水の中にいます。
それは次のうちのどこですか?
1、水たまり。
2、池。
3、湖」
「ほほーん。湖!?
んぷぷぷっ、きゃはははははーーーー」
「あは、ごめんごめん。
いや、そうだよね。
思春期の男の子だもん。
いいんだよ。それが普通だよ」
「は~い。
実は~
これは~
心理テストでしたー。
この心理テストでわかってしまうのは、あなたの性欲の強さです」
「ごめんごめん//笑いながら。
湖を選んだあなたは……。
性欲、けっこう強めです」
「水たまり、池、湖の順に強くなっていくの」
「ごめんごめん。
怒った?
なんで怒るの?」
「性欲強いっていうのは恥ずかしい事じゃ、ないんだぞ。
自然の摂理なんだぞ!」
「じゃあ、次の質問ね」
「今度はエッチな質問じゃないよ。
真面目な質問。
行くよ。いい?」
「あなたは金魚すくいをしました。
何匹つかまえましたか?
そして、何匹ににげられましたか?」
「ふふ~~ん。
一匹つかまえて、二匹に逃げられたのね。
んふふ。そっか」
「捕まえた金魚の数はねー、君が好きな人の数。
逃げられた金魚の数は、君のことを好きな人の数」
「当たってる?」
「わかんない?」
「好きな人の数は、当たってるんだ。
そっか」
「好きな人がいるんだね?
って声は、君には聞こえてないな」
「胸が苦しいよ」//小さな声
「君が好きな子は、私よりかわいい子だったら、いいな」//とっても小さな声
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