黄昏のイデア

黄昏のイデア

　あなたはイデア。

　現界に存在してはいけない、概念の子。

　いずれ、現界の空想を担う者となるのです。

　産まれたばかりのイデア。

　まだ、何も知らない純粋な子。

　まずは、ひとつだけを学ぶのです。

　あなたの眼に、映っている物がわかりますか。

　蒼色（あおいろ）を蝕むようにして広がる、橙（だいだい）の空です。

　『黄昏（たそがれ）』の空ですね。

　あなたはこれを、どう捉えましたか。

　美しい、と。

　そうですね、とても美しいです。

　では、この黄昏（たそがれ）を美しいと感じる理由はわかりますか。

　いえ、わからなくて良いのです。

　あなたは、これから学べば良い。

　どうやら、答えを知りたいのですね。

　とても簡単な話です。

　ただ色付いただけの空を美しいと思わせる、脳内概念。

　即ち、イデア。

　あなたの脳内に、それが存在していた。

　たったそれだけなのです。

　まずは、ひとつだけ。

　あなたは今から、この黄昏（たそがれ）のイデアになるのです。

　はじまりは、それを見ることから。

　よく見て、学びなさい。

　※

　黄昏（たそがれ）のイデア、私がわかりますか。

　何も見えない、と。

　私が、見て学べと伝えたからでしょうか。

　その眼に灼熱の惑星を映し続けたのですね。

　イデアの根幹は、まず見ることから。

　今のあなたでは、残念ながらイデアになれません。

　いえ、あなたが悪いのではありません。

　なにかできる事、ですか。

　いいえ、大丈夫です。

　あなたはもう、休んで良いのです。

　黄昏（たそがれ）は、別のイデアに任せましょう。

　心配しなくとも、あなたの代わりは沢山いますよ。