第7話 男→女、女の子って大変

 マークについた2年生をフェイントでかわし、ゴール下へと走りこむ。

 そのままシュートと見せかけディフェンスを引き付けた後、フリーになった由香にパスを出した。

 パスを受けた由香はジャンプシュートを悠々と決めた。


「ナイス、シュート!」

「ナイス、パス」


 由香とハイタッチを交わした。


 こちらの世界では僕はバスケ部を辞めておらず、由香もバスケ部員だった。平凡な実力だった僕でも男子と比べれば女子のスピードは落ちるため、見切るのは簡単で面白いようにカットインが決まり、パスも通せる。

 ラノベでありがちなチート状態と言っては大げさだが、こっちの世界では僕でもヒーローになれる。


 その後もシュートやパスなど先輩たちを圧倒するプレイを連発して練習が終わった。練習終了のミーティングの後、キャプテンに呼ばれた。


「西宮さん、調子いいみたいだから、今度の練習試合出てみようか」

「はい」


 1年生ながら次の試合に出られるようだ。思いがけない展開に驚きでリアクションも取れない。


「理沙、すごいじゃん」

「頑張ってね」


 由香をはじめ他の一年生部員からも賛辞の声があがった。今まで平凡で地味な学校生活だったが、こっちの世界にきて文字通り生まれ変われた。


「片づけよろしく」


 2年生の先輩たちが先に部室に戻っていった。先に先輩たちが着替えを済ませ、その間1年生は、ボールの片づけや体育館のモップ掛けを行う。

 部室があまり広くないので、全員一緒には着替えられないことから生まれた習慣のようだ。


「今日も疲れたね」

「シャトルラン5セットはマジ死ぬって」


 片づけを終え、今日の練習の感想を言い合いながら2年生の先輩が部室から出たあとの部室に入る。


「えっ、何これ」


 部室に入ると、制服とカバンの中身が乱雑にまき散らされていた。

 見覚えのある筆箱が床に落ちている。どうやら、まき散らされているのは僕の荷物のようだ。


「ひどい」

「きっと、松下先輩よ」


 由香が僕と同じポジションの先輩の名を挙げた。今度の練習試合に僕がでることで、レギュラーの座が奪われることを妬んだのかもしれない。


「証拠もないのに疑うのはやめておこう。それに騒いだ方が向こうの思う壺だし、ここはあえて何もなかったことにしよう」


 散らかっただけで実害がないといえばない。いじめが続いてものが壊されたり、暴力を受けるようになったらバスケ部を辞めればいい。

 もともといじめの対象にすらなっていなかったボッチな僕に失うものは何もない。


「理沙って大人。かっこいい!」


 由香たちが床に散らばったものを集めてくれた。先輩の嫌がらせで、かえって1年生同士の結束は強くなったので良かったともいえる。

 いじめは怖くないが、女の嫉妬って面倒だな。


「ハア、ハア。きつい、もう無理」


 自宅前の坂道。男のころにはなんとも思わなかったが、部活終わりの疲れていることに加え、女の子になった僕には登り切るのは無理だった。

 仕方なく、自転車を降りて押しながら坂を登る。

 行きよりもさらに5分余計に時間がかかってしまい、家に入ったころには7時半を過ぎていた。


「ただいま」

「おう、おかえり」


 帰宅すると、すでに父親が上機嫌でビールを飲んでいた。地元の建設会社のさえない営業職の父にも、二人の女性と結婚しているなんて羨ましい。

 母はそんな父に、おつまみを出したり、ビールのお代わりを持ってきたりと甲斐甲斐しく尽くしている。


 元の世界では夫婦仲が悪くしょっちゅう喧嘩していたが、こっちの世界では仲良しみたいだ。ひょっとして男が少ない方が世界はうまく回るのか?


 そんなことを思いながら、夕ご飯の生姜焼きを口に運んだ。甘辛い味付けでご飯が進む。


「お母さん、ご飯お代わり」

「それ以上食べると、太るからやめておきなさい」

「そうよ、お姉ちゃん。デブはもてないよ」


 母と妹それぞれから非難されて、お代わりできなかった。そうか、女の子になったんだから、体重管理もしないといけないのか。

 女の子って大変だな。


 腹八分で夕ご飯を終え、お風呂に入ることにした。女の子のお風呂が大変なことを、ラノベオタクの僕は知っている。

 スマホであらかじめ調べ、予習はばっちりだ。


 脇や脚などのムダ毛も処理して、体を洗い髪の毛に取り掛かる。

 まずはコンディショナーをなじませて、シャンプーで洗い流す。そしてトリートメントをなじませて再度洗う。

 

 お風呂上りも髪の毛をタオルドライしている間に、化粧水と乳液で保湿ケアして、髪の毛をドライヤーで乾かす。


 って、わかっていたがやること多い。5分で終わっていた男のころとは大違いで、30分以上かかっている。

 これ毎日するの?女の子って大変。


 お風呂が終わった後は、学校の宿題と予習に取り掛かる。すでに時間は10時を過ぎている。

 転生初日でいろいろとなれないうえ部活もして体は疲れているが、明日の準備を終えないことには寝るわけにはいかない。

 授業中、予習してないのがバレると怒られてしまう。そんな姿を男子に見られてしまっては、幻滅されてしまう。

 でも早く寝ないとお肌が荒れる。女の子は忙しい。

 

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転生先が思っていたのと違う件 葉っぱふみフミ @humihumi1234

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