第5話 男→女、女の子は積極的

 午前中の授業は英語、数学、世界史だった。いずれも元の世界と授業の教科書は同じだが、授業のレベルが一段階も二段階も上がっていた。

 調べたところ女子枠の偏差値は元の世界よりもかなり上がっていた。


「女子のみんな、いい大学行って高学歴の男と知り合うために、勉強頑張るよ。男子も稼げる職業について、二人でも三人でも奥さん持てるようになってね」 


 先生もおくびにも出さずそんなことを言い、女子も男子も真面目に勉強に取り組み授業中居眠りする子もいない。


 そんなハードな授業を3時間こなし、ようやく昼休みになった。おもわず、机にうつ伏してしまう。

 1分ほどそうやって少しは体力を回復させたところで、お昼ご飯を食べようと体を起こすと目の前には由香が立っていた。

 

「理沙、一緒にお弁当食べよ」

「えっ、いいの?」


 由香が隣の席に座り、お弁当を広げ始めた。

 高校入学以来いままで昼ご飯は一人で食べる、いわゆるボッチ飯だったので思わず聞いてしまった。


「今日は真由に席譲ったしね」


 何のことだろうと教室の周りを見渡してみると、女子が男子の周りを取り囲み一緒にお弁当を食べている。

 数少ない男子の近くで一緒にお弁当を食べたい気持ちはみんな同じで、男子の近くの席になった子は順番で他の子に席を譲るのが習慣のようだ。

 北野真由は東野遥斗の隣でお弁当を広げて、嬉しそうにしている。


「いただきます」


 僕らも弁当箱をあけ、食べ始めた。お弁当を食べながら、自然と会話が弾む。

 まだあまりこちらの世界のことは知らないのであまり話すとボロが出そうなので、おしゃべりな由香が一方的にいろいろ話してくれるのに相槌だけを打っている。


 由香の推しメンがでているドラマの話を聞きながら、どうしても気になってしまう東野の方をチラチラと横目で眺める。

 真由が自分のお弁当から卵焼きを箸でつまんで、東野に食べさせているのが見えた。


 TSしなければ今の東野の立場が自分だと思うと、羨ましてくて仕方ない。でも、その一方で卵焼きを食べさせている真由にも嫉妬してしまう。

 

「ねえ、理沙聞いてる?」

「ごめん、ごめん」

「もう、さっきから東野君ばかり見て」


 チラチラ見ているのに気づかれていたようだ。


「私は斎藤君狙いだから、かぶらなくて良かった。いつかダブルデートしたいね。それでね、遊園地行って観覧車乗って夕日見ながらね……」


 由香はクラスの他の男子の名をあげ、妄想のダブルデートの話を熱く語った。


 午後の授業は体育だった。男子は体育館にある更衣室で着替えるみたいで、先ほど5人一緒に教室から出て行った。


「気にしないから男子も一緒に着替えればいいのにね」

女子うちらが気にしなくても、男子が気にするって」

「どうやったら男子更衣室覗けるかな?」

「今度隠しカメラ仕掛けようか」


 そんなセクハラ発言をしながら、みんな制服を脱ぎ始めた。右も左も同じような状況なので、自然と女子の下着が視界に入ってくる。

 TSする前なら夢のような状況だが、自分自身も女の子になってしまうと特にいやらしい気持ちはわいてこない。


 自分も着替えながら何とはなしに見ていると、体育があるのでスポブラの子も多い。一方、隣で着替えている由香は、僕と同じ普通のブラだ。


「スポブラの方が楽だけど、やっぱり色気がないよね」

「制服から透けるブラが男子をそそるのにね」

「理沙、わかってる」


 僕の心を見透かしたかのように、由香が言った。僕もそれに話を合わせた。元の世界にこんなことを女子に行ったら、女子全員を敵に回すような発言だが、こっちの世界だと普通のようだ。


 体育は隣のクラスとの合同授業で、体育館にはいると隣のクラスの子もすでにきていた。

 今日の体育はバレーということで、ポールを立てたりネットを貼ったりと準備をしていると、体育担当の松本先生が現れた。


「男子の方だけど、ひとり今日欠席がいるみたいで9人しかいないの。男子は今日テニスだから偶数じゃないと余る人がでるから、誰かひとり男子の方に行って欲しいけど……」

「私テニス部です」

「私も小学生のころ、テニススクール行っていました」


 先生が言い終わらないうちに、多数の女子が手を挙げて必死に自己アピールを始めた。

 収拾がつかなくなったので、じゃんけんで決めようということになった。

 悲喜こもごものじゃんけん大会の末、中学時代はテニス部だったという真由に決まった。


「じゃ、行ってきます」


 真由は嬉しそうに体育館を出て行った。


「くっそ、汗でにじんで透けてきた男子の体を生で見られるなんてずるいぞ」


 先生という立場なのに、自らもじゃんけん大会に参加していた松本先生が本気で悔しがっている。


「ほら、女子たち。もう私やる気ないから、適当にバレーボールしておいて」


 松本先生は体育館の隅で、スマホでネット動画を見始めた。こちらの世界はわりとみんな自由に生きているようだ。

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