第3話 男→女、美少女に生まれ変わるが……
理人は翌朝、胸の感触がいつもと違うことに違和感を覚え目を覚ました。なんだか胸が重たい。手を胸に当ててみると、柔らかい感触があった。
「これって、ひょっとして?」
慌てて下半身をチェックした。見慣れた男のシンボルがなくなっていた。
「転生したんだ」
ラノベを読みすぎているせいか、女の子に生まれ変わったことに驚きはあるが、自然に受け入れることができる。
顔はどうなっているのか気になって、ベッドから飛び降りると真っ先に洗面所に向かった。
階段を下りて廊下の突き当りのドアを開けると洗面台が見えた。
家の間取りなどは同じところを見ると、今までの設定は引き継がれてるパターンのようだ。
鏡をのぞいてみると、目や鼻の形など昔の面影もあるが、頬骨のごつさが消え全体的に丸みを帯びた女の子っぽい顔立ちに変わっており、美少女といっても差し支えない顔に変わっていた。
雪のように白く透き通るような肌を触るとお餅のような弾力があった。またその肌と対照的なカラスの濡れた羽のように黒く輝いている方まで伸びた髪の毛に触れると、さらさらとしていた。
ラノベのTS設定にありがちな、朝起きると美少女に生まれ変わっていたパターンだ。
「理沙姉ちゃん、洗面台使い終わったなら代わってよ」
妹の美樹はまだ眠そうに目をこすっている。そうか、こっちの世界では理人から、理沙になったんだな。
さりげなく名前を教えてくれた妹に感謝しつつ、モテモテの学校生活への期待に胸が高鳴る。
「理沙、おはよう」
「お母さん、おはよう」
リビングのテーブルには今まで通り、朝食用のヨーグルトが置かれている。パンは各自、自分が食べるタイミングで自分で焼き始めるのが西宮家のルールだ。
ただ、いつもと違うのが、ヨーグルトの皿が3つしかない。お父さんの分が足りない。
「お父さんの分は?」
「今日は火曜日でしょ。お父さん、今晩来るよ」
火曜日だから、お父さんがくる?違和感のある表現に、ラノベオタクのセンサーが反応した。
こんなときはテレビのニュースをみれば、タイミングよくニュースが流れるはず。
「ちょっとお姉ちゃん、勝手にチャンネル変えないでよ」
「少しだけだから」
新規オープンのパンケーキ店を紹介していた情報バラエティ番組から、固い放送局の朝のニュース番組にチャンネルを変えた。
「総務省が昨年の人口統計を発表しました。それによりますと、男子の出生数は35年連続で低下しており、去年生まれた新生児に占める男子の割合が8.3%、総人口に占める男性の割合は10%を切って9.9%となり、いずれも過去最低を記録しました」
知的そうな女子アナが表情を変えずにニュースを読み上げた。ひょっとして、これは貞操逆転世界ってやつなのか?
貞操逆転世界、男の割合が少なく女性のほうが積極的に男性に絡んでくる設定で
ラノベやネット小説ではありがちな設定ではあるが、その場合主人公は男側のはず。
TSと貞操逆転世界、ラノベでありがちな設定が両方同時にやってきたようだ。
そんな「ダブルでお得」キャンペーンなんていらない。
「お姉ちゃんもういい?このあと『おは6』に長瀬潤が出るから見たい」
「あっ、ごめん。もういいよ」
長瀬潤が誰なのかわからないが、なんとなく美樹が推している俳優だかアイドルなんだろう。
あわただしく朝ごはんを済ませると、自室にもどりスマホでこの世界のことを調べた。
地球温暖化の影響か、あるいは新型ウイルスの影響なのか原因ははっきりしないが、数十年前から世界中の男性の出生数が減り続けているらしい。
わが国では20年ぐらい前から人口を維持するために「一夫多妻制」を導入となった。
そのため西宮家のように平凡な父親でも複数の家庭をもっているのは当然のことで、曜日によって帰る家を決めているのが一般的のようだ。
思ってたのと違う、そんな思いを抱きながら、学校へと向かった。
女性に生まれ変わったら男性のころより筋力が落ちているので、自転車を漕ぐのもちょっときついというTS定番の展開となり、いつもなら学校まで15分だったのに20分かかってしまった。
「理沙、おはよ」
「おはよ」
学校の駐輪所に自転車を止めていると、丸顔のかわいらしい女子から挨拶された。元の世界にもいた、坂井由香だ。もちろん元の世界の時は同じクラスというだけで話したことはないが、こっちの世界では友達という設定のようだ。
駐輪所から校舎へとむかう途中、校門の前で男子生徒と僕たちとはちがう制服の子がイチャついていた。
「あいつら、ムカつくよね。せっかく勉強頑張って共学に入ったのに、色仕掛けで男子誘惑してさ」
由香によるとあの女子は、この学校の先にある女子高の生徒のようだ。男子が少ないこの世界では共学は人気で、共学の女子枠は競争率が高いようだ。
勉強が苦手な女子は自らの美貌に磨きをかけ、他校の男子の気を引こうとしている。
元の世界と同じ1年3組の教室に入ると、やはり男子が少なかった。教卓においてある座席表を見ると、35人クラスに男子は5人。
数少ない男子の周りを女子が取り囲んでいる。男子はみんな慣れている感じで女子たちと仲良く話しているが、その中で一人困惑した表情で女子たちの会話に相槌だけうっている男子がいた。
座席表によるとその男子の名は、東野遥斗。前の世界では東野遥というクラスメイトがいたが、関係あるのかな?
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