第110話 意外性のある彼
「乗船のみなさま〜、今日はかなり波が荒れております。袋を今から順番に配りますので、お待ち下さい」
「今日はやっぱり波が高いんだね、窓見てごらんよ、凄い波しぶきだね」
「始めてだから普段との違いが、まったく分からないけど、ジェットコースターみたいに揺れるね」
始めのうちはテンション高めで、ウキウキした気分で、窓を見ながらはしゃいでいたが、そのうち、後ろの席の子供たちも、下の階に移動して横になっていた。
私もだんだんと、胃がムカムカしてきて、顔が真っ青になってきていた。こんな時に倒れる理由にはいかないと、気をはろうと試みたが、気持ち悪さが勝ってしまい、とうとうダウンしてしまって、彼にもたれかかっていた。
時間にして、30分が過ぎようとしていた頃、とうとう吐いてしまい、周りの乗客からも心配され、扇子を貸してもらったり、声をかけてもらった。彼もいろいろ綺麗にしてくれたり、風を送ってくれたり、声をかけてくれたりずっと支えてくれていた。
現地について降りた時に、一緒に降りた旅行客は皆どこかにいなくなってしまっていた。私は具合が悪くて歩く元気もなかった。
ちなみに降りた時に甲板に出ていた人達は全身びしょ濡れだった。どこにいるのが正解だったのだろうか。
「あそこに、待合室があるから少し休もうか」
「…うん」
話す元気もなかった。少し歩くのも精一杯で、休もうと言ってもらえて助かった。待合室まで辿り着いて座っていると、子猫が入って来てちょこんと隣にきた。まるで心配してるかのように。
島には猫たちがあちらこちらにくつろいでいた。人間を怖がってる様子はない。多分ここにくる人も、猫たちに嫌がる事をしないのだろうと思った。子猫を撫でていたら、ボス猫らしき猫が待合室に入って寝そべってこちらを見ている。
子猫を撫でていたら、少し元気が出てきて、歩けるようになったので、子猫にありがとうと言いその場を去った。
「あっあそこに、なんか食堂あるよ、行ってみようか」
「うん」
「ほら、見てごらん、沢山猫たちいるよ!こんにちは〜こんにちは〜」
【相変わらず、面白い人。一匹一匹に挨拶してる】
「日向だから、餌食べないんだよね、お水入れて、日陰においてあげたらいいんだよ」
食堂は閉まっていたが、食堂の前に沢山の猫たちが暑いなか、日陰を探して昼寝をしていた。炎天下の下、アルミ製のお皿の手つかずの餌が放置されていたのを見て、彼が日陰に持ってきて、空いたお皿に水道から水をくんで餌の隣に置いておいた。
猫たちが、集まって来てむちゅうで、餌を食べていた。やっぱり暑くて炎天下だと食べる気にならなかったのかもしれない。ちょっとした彼の優しい気遣いが垣間見える瞬間だった。
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