第102話 お別れ
実は何も思い出せない。唯一この当時の記憶だけが頭からすっぽり抜けてしまっていた。夜間の仕事を終えて、帰って来た京介に私と尚文が「お前らいい加減にしろ!出ていけ」と言われたのだけは覚えていた。察するに口喧嘩をしていたのかもしれない。
「後少しいさせて、今尚文に友達も出来た所なんだからこれから、少しづつ変わるかもしれない」
「それが、余計な事なんじゃないのか?全然変わるどころかむしろ悪くなってないか?俺はどうなるんだ?毎日おまいらに、食材提供してるのに、蚊帳の外でこの先見えないぞ!電気代だってばかに出来ないのに」
「……」
「早くこうすれば良かったんだ、ごめん」
と京介が一言つぶやくと、部屋を出ていった。
確かに、京介にかなり世話になっていた。京介の助けなしでは暮らせなくなっていたのに、京介が話かけようとすると、尚文は極度に嫌がった。いつも京介に対してイライラした態度をあからさまにしていた。
言われた私は、小さなボストンバックに常備薬や、パジャマ、を詰め込んだ。尚文もそんな私を見て、身の回りのものをバックに詰めて先に車に乗り込んだ。
玄関にいた私に京介は「お前も、もう出ていってくれ」とそう言った。
思えば、少しいるつもりが尚文が1人では、京介の所にいられないというので、私も一緒に住み始めたのだが、長くなってしまっていた。私は離婚していたのだ。転々と引っ越しをしてるのもあり、猫も京介に預けっぱなしになっているので、感覚がおかしくなっていた。
これで、いいのではないか。自分自身に言い聞かせ、これからどうしようと漠然と考えていた。荷物などヨレヨレのパジャマ一つしか持ってきていなかった。あと、携帯とお財布。
「追い出されちゃったね。これから、どうしようか?」
「とりあえず、仕方ないから俺のアパートに行くしかないんじゃないの?」
「そうだね、食料あったっけ?」
「どこか、人のいない所のスーパーで買って行こう、それとあまりあのアパートにいたくないから、夜遅くなってから帰ろう」
「分かった、とりあえず食料仕入れだね」
この先の事を考えても仕方ないし、考える気力も残っては、いなかった。車だけ駐車場が臨時で、止められるスペースはあるものの何日も借りてられないので、近くに月掛けをそのうち契約しないと、と頭の中では考えていた。
その日の夜は、私は疲れきって眠っていた。だが、尚文は夜中の3時に目を覚ましていた。
「音がする、その音で今棚の上のアクスタが落ちた」
「気になるなら、テレビつけてもいいし、エアコンつけて寝よう、ラジオつけてもいいし、電気つけて寝てもいいし」
「うん、そうする」
尚文はテレビと、電気をつけた。そしてエアコンをつけたら、その音で少し気にならなくなった。
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