第98話 訪問客

 尚文にとっての実家は有り難いものだった。だが、たまに実家の周りで騒音がある時は、イライラして不安になって眠れなくなる事もあった。なので、そのような時はアパートに一時避難していた。そこには車で乗せて行き、1人では食事も大変という事もあり、話の流れで、私も一緒に泊まる事になった。


「最初だから、いろいろ不具合とか確認した方がいいのと、給湯器とか、ガス屋さんを呼ばないといけないね」


「そうだね、お風呂場が黒いすすみたいのがいっぱいついてるね。トイレの電気もこれどうやってつくんだろう?」


「テレビもつくかアンテナが作動するか、設置してみないとね。ネットもつないで見ないとね」


「ねぇ、インターホンが光ってるから見たらさ、数えたら50人きてるんだけど……」


「50人?って?」


「この部屋に50人訪ねてきてる!この間、引っ越ししてきて、荷物運んだ時、インターホンの動画見てるけど、その時は誰も来てなかったから、この1週間の間で来たんだよ、ここに映ってる人」


「えっ、どういうこと?だって留守にしてたよね?不動産屋に、それとなく聞いてみようか?」


 早速不動産屋に連絡して、不具合のあった場所の工事の業者の手配をいれ、都合つく日に来てもらう事にした。それと何気なく、インターホンに映ってた、訪問客の事もそれとなく話してみた。


「いや~そんな訳ないと思いますよ。それ以前の分じゃないですかね〜。もし仮にまた誰か来た時は、その時はこちらに話してください」


「いや、俺確かに引っ越しの日、確認したはずなんだけど……」


「1人の時は、開けない方がいいと思うよ。よっぽど、宅配とか郵便とか不動産屋とかは別かもしれないけど……怖いからね」


 不具合のあった場所の事に関しては、尚文はその日、業者と顔合わせしたくないという。人を避けてる気持ちは分かるがそれでは、整った環境で住む事ができない。京介が夜間仕事についていて、昼間寝ないといけないのに、無理に来てもらい、尚文をその日外に連れ出してもらった。その間に、テレビのアンテナ工事、ネット工事、電気工事、ガス工事をすませた。丸1日がかりだった。


 それにしても、ガス工事は別としても、テレビが見れなかったり、電気が切れてるのが、電球の問題ではなく、配線の問題だったり、風呂場がかなり汚かったり、インターホンの消去もしてなかったり、あまりにも人に貸すのに、どうなってるんだここの不動産は?と内心ありえないと思ってしまうのは私だけであろうか。


 それも、立ち会いに結局住民がしなければならなくて、うーん。家賃が安いから仕方がないのか。などと思ってしまっていた。


 次の日は、知り合いになった友達と会う約束をしていて、9時には出る予定だった。しかし……。


 一晩眠り、その日の早朝尚文がトイレに行った。多分5時30分頃だったと思う。戻ってきた尚文もまた布団に潜り込んだ。私は眠い目をこすりながら時計を見たら、まだ早いので、布団をしっかりつかみもう一度浅い眠りに入った。それから、何分も立っていない時間に、「バタバタバタバタ」「ガンガンガンガン」目の前のアパートの廊下を凄い足音で駆けて行く音と、アパートの、脇の階段の鉄を叩く音で飛び起きた。


「何、この音?ちょっと見てきて!」


「うん、分かった」


 尚文に言われるがまま、私はパジャマ姿で髪ボサボサのまま、外に飛び出した。



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