第91話 苛立ち

 警察官にその日はとりあえず、部屋に戻るように促され納得はいかなかったが尚文と私は渋々戻る事にした。


 ところが数分もしない間に、また「ピンポーン」警察だ。何のことはない、下の住民が、アパートに横付けにしている私の車に、気分を害しているので移動させろと騒いでいるらしかった。


 私が警察に車の移動の事で、また下に降りた時の事だった。1階の斜め下の住民が出てきていて叫んでいた。


「お前ら、前の物件でも騒ぎ起こしたって不動産屋から聞いてるんだからな!何かあればすぐ報告してくれって言われてるから、明日にでも連絡してやる!」


 何も事情知らないで、不動産屋も余計な個人情報を伝えて、こじらせる事を作ってくれている。これでは、こちらがまるで危険人物ではないか。警戒されても仕方がないような言い方をしてくれちゃっている。信じられない。


 車の事も不動産屋に許可をえて、アパートに駐車していたが、そのままだと傷をつけられる可能性がある。警察官がいるうちに歩いて30分の坂道を下った所に有料駐車場があったので、そこまで車を持って行った。


 車を置いて戻ってくると、誰もいなくなっていて、いつもの静けさに戻っていたが、私は1人、怒りが収まらなかった。斜め下の住民はともかく、加勢した端の外国の住民に怒りの矛先が向いた。


「ピンポーンピンポーン」


 ドアが開いた。


「先程はお世話様です。ちょっといいですか?」


「あっはい、どうぞ」


「そんなに、音うるさいですか?」


「あーっ、自分は、実は音は聞こえた事ないです。お宅の下の人が、この間うるさいって言ってて、家にお酒持って愚痴を言いに来たので、可哀想だなって思っただけです」


 そうは言うが、さっき警察が来た時は、一緒になって、かなり家を罵倒してたぞこの人は……。音が聞こえてもいないのに、それを言ってたのか……。酔った勢いかしらないが、かなりその事で絡んで来てたのに。今はやけに低姿勢だな。警察が帰ったからか…。そんな事を考えながら私は会話していた。


「ほんとに、音出してないんですよ、むしろ下の家の方が生活音はうるさくて。でもお互い様と思って我慢してたんです。車も、荷物搬入とか、一晩とかなら、邪魔にならないように止めてもいいって不動産屋に許可とってたんですよ」


「そうなんですか?知りませんでした。自分昨日いなくて、一昨日の昼間も泊まってたからずっと止めてあると思って勘違いしました」


「一昨日は荷物搬入で昼間来ただけで、そのまま帰りましたし、今日は夜来ただけです」


 その後は、さっきの鬼の形相とは打って変わって、日本のアニメの話や音楽の話をしつつ少し打ち解けて、帰る事になった。一応仲直りは出来たような気がした。


 少し安心して部屋に戻り、明日に備えることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る