第90話 警察

 入れ墨をした、金髪のおじさんが玄関ドアの向こう側で騒いでいる。やばいなぁ。そう思うと、尚文はとっさにそっと携帯で画像を写真で撮った。足音を立てないように、静かに部屋に戻る。まだ玄関ドアを叩いてる音がしていた。


 どのくらいたっただろうか。5分、10分その間に私にメールが尚文からきた。


《今寝てたら、知らない人が来てインターホン越しにうるさいって言われたんだけど》


《また?もう夜中の2時だよ?寝てたんだよね?どういう事?》


《知らないけど、なんかインターホンの画面見たら入れ墨してる人で、どこの人かも分からないし怖いんだけど》


《だよね、困ったね、でももう遅い時間だから、とりあえず朝になるまで待って、不動産屋に連絡だね》


《うん……。分かった》


 後で思ったが、警察に連絡しなさいって言うべきだったのかもしれない。


 次の日、不動産屋に尚文は連絡して一部始終を話したが、どうやら、それは尚文の斜め下の階の住民だった事が分かった。尚文が引っ越しした次の日に、その住民が斜め下に引っ越ししてきたらしい。


 音のことで散々、両隣や上下いない場所にこだわって入った事を知っていたはずなのに、大家が、他の部屋が空いてるのに、うちが引っ越しした次の日に、斜め下に人を入れてるなんて信じられなかった。


 しかもその住民は妄想癖がある持病を抱えた住民だという事があとから分かった。


 次の日から尚文は一人で住むことに不安を抱えてしまった為に、私が一週間、一緒に住むことにした。その為に車を初日に荷物もあった事から、一晩アパートに横付けして泊まった。その日の夜に事件はおきた。


 尚文と私はアニメを見ながら静かに、足音もほぼ、トイレに行った時くらいしか立ててなく、後はレンジでご飯を温めた音くらいしか出ていなかったと思う。その日はお風呂はやめていた。そして、夜の21時を周った頃の事だった。


 やけに外で話声がした。酔っぱらいのような大きい話し声だ。3、40分くらいしていたので私は玄関ドアを開けて表を見に行った。そこには、男が2人いた。声が一瞬止んでこちらを見上げてる、そして明らかにこちらを見て「あっ女だ!女連れ込みやがって」とその声の主は言った。


 その数分後。


「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン」


 私と尚文は顔を見合わせた。


「はい」


 私は通常状態で出た。そこには、さっき下で大声で話していた男2人組が立っていた。


「うるさいですよ。静かにしてもらえますか?これ以上うるさかったら、警察よびますよ!」


「はぁ?普通に生活してるだけですよ。これでうるさいって言われたら、たまったものじゃないです、呼びたければ呼べばいいでしょ」


「そうさせてもらいます」


 相手はそう言っていたが気にせず、私は頭にきてガチャっとドアを締めた。


 30分後、警察が来た。


「お話を聞かせて下さい」


「いいですけど、普通に生活していて、うるさいって言われる筋合いはないです。まして歩く時ですら、忍び足で生活して、今日はほぼ動いてないのに、何をもってうるさいって言ってるのか分からないです」


「そうなんですね。ちょっと、部屋を見させてもらいます」


「正直、下の階の方が何度もむやみやたらにドアの開けしめとか、力まかせにばんばん夜中音立ててるし、下手すると明け方まで寝れなくて困ってるのはこちらの方です」


「そうでしたか。ではお互い様なんですね下の階の人の話ですと、沢山の人数で、どんちゃん騒ぎとか言ってたんですが、お一人住まいですか?」


「10日前に引っ越ししたばかりで、通常は一人で住んでいますが、誰か呼んだ事はありません。この間下の階の人が夜中にピンポーンならしに来て、子供が怖かったらしくて、それから、私も今日試しに来てみたんです」


「わかりました。下の階の方に話てきますので」


 警察が出て行った後、下の階の方から罵声が飛んできた。


「ふざけんなよ。いつもいつも騒ぎやがって」


 それを聞いた私はさすがに頭に血が登った。


 下の階に降りて行って、噛みついた。


「ふざけてんのはどっちなのよ、こっちは普通に暮らしてるの!邪魔してるのはそっち、言いがかりつけるのも大概にしろよ!」


 私の反撃に、警察官が私を止めた。


「いい、大人なんだからやめましょう。部屋に戻って下さい。」


 その言葉がさらに苛立に輪をかけた。


 確かに相手は、入れ墨をしてても多分私よりは10以上は若いとは思った。でもだからといってなんでも言って言い訳ではないと思う。


 尚文もそんな私を見ていて興奮した相手を動画に撮っていた。


 それを見ていた警察官に、さらに私が子供を注意するように怒られ……。








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