第88話 嘘
「彼女から聞いた話なんですが、2年前に家の借りていた部屋と、同じ部屋に住んでいた住民を下の階の方、トラブルで追い出したって聞きましたよ。大学生の方ですよね」
「何の話ですか?確かに大学生でしたけど、トラブルも抱えてないし、出たのはついこの間ですよ」
「えっいえ、彼女はその大学生と知り合いだったんです。下の階の方とトラブル起こしたって言ってましたよ。そうですよね、あやのさん」
私は彼女の方に向かって、そう言ったが、彼女は無言だった。
「なにかの間違えじゃないですか?苦情とか出てませんし、普通に長く住んで、卒業とともに出られた方ですよ」
「そんな事あるわけないです。ちゃんと聞きましたから」
でも当のあやのさん本人は、終始無言を貫いた。何しにここに来たんだ。と私はかなり苛ついてた。
「警察の方も、近所に事情聴取した結果なんですよ。下の階の方は2階から音がするっていうし、2階の人は3人のうち1人は前からいる人で、あなたともう1人が同時に入ってるんですけど、その人は何度鳴らしても出て来ないから、普段いないんじゃないかと思うんですよね」
「家も先程話したように、ほとんどあのアパートに住んでないんです。引っ越し初日から警察呼ばれて住めてないんですよ」
「でも貴方がたをこのまま、居させる訳には行かないんです」
「こっちが被害者なのに、なんですかその態度はいい加減にして下さい」
話しに拉致があかなかった。不動産屋は下の階の住民とは知り合いで、すでに家を追い出すつもりでいるらしかったので、一歩も引く気がない。
私は悲しくなって思わずつぶやいた。
「ここの物件を探した時に、家具付きでどんなにありがたかったか分からなくて、大家さんに感謝していたのに、こんなに酷い仕打ちされるとは、私の勘違いだったんですね。」
「少し、お母さんと尚文さんと3人で話させてもらえませんか?」
大家さんが口を開いた。
「皆ちょっと席を外して下さい。」
「良かったじゃないか、大家があんたに話してくれるってよ」
と捨て台詞を言って不動産屋が立ち去って言った。
「嫌な思いをさせて、申し訳ありませんでした。一応両方から、話を聞かないと分からなかったので、今日お呼びしました。尚文さんも怖かったですよね。すいません、今後このような事がありましたら、相談に乗りますので、言ってくださいね。それと相談なんですが、あのままあそこの部屋でもいいんですが、多分もう居心地悪いでしょうから、部屋別に用意しますので、後日また事務所にいらして下さい」
それは、親切な対応だった。
尚文と私は気持ちが、やっと伝わった、信用してもらえた。相手の事もこれで少しは信用出来ると思った出来事だった。
あやのさんはというと、その間に不動産屋となぜか電話番号を交換していた。後で、不動産屋から聞いた話だが、彼女がグループホームに入っていて、そこに尚文も入ればいいとかと言う話を不動産屋にしていた事が分かった。
話が終わると、あやのさんは私は用事があるのでと、どこかにいなくなってしまった。いろんな事がありすぎて、私はその姿をただ呆然と見送っていた。
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