第86話 作戦
一本の電話が京介の所にかかってきた。
「交通局です。お探しの携帯電話が昨日見つかりましたので、取りに来て下さい。いつ頃こられますか?」
「今日中に行きます。ちなみにどこで見つかりましたか?」
「〇〇経由の〇〇行きのバスの座席で見つかりました。覚えはありませんか?」
「まったくそのバスには乗ってないんですよね」
「そうですか…まあ、では今日お待ちしてますので宜しくお願いします」
それは、あやのさんと会った日から1週間たっていた。多分これもあやのさんが、携帯電話を盗った事に間違いなかった。
尚文の携帯電話がこれで見つかった訳だが、お金が盗まれた事もすべて、京介にも、尚文にも話していた。その上で、今度の不動産屋との会議の日に来ると言っていたのでどうしたものかと悩んでいた。
今思えば、警察に突き出す事も、もしかして出来たのかもしれない。住む場所の確保の方がその時は、大事に思えて、最後にあやのさんに証言の協力をお願いしようと思い、会議の当日まで、彼女を追い詰めるのはやめることにした。
会議の前日になってあやのさんからメールがきた。
《お疲れ様です。明日の事なんですけど、大学生の事、伏せてもらっていいですか、やっぱり個人情報なんで。昨日その大学生と呑んだんですけど、明日、県外に引っ越すらしいんです。それで、ここでの出来事は忘れたいから郊外しないでほしいって言われたんですよ》
《事件あった事もすべて言わないでってコト?》
《そうみたいです。私も聞いたんですよ。一応、知り合いが困ってるから、力になってあげてって。でも困るって言われちゃって》
《じゃあ、明日の会議あやのさんは来れない感じかな?》
《あっ、私は仕事休みとったんで行きます》
《あっそうなんだ、でも話せないなら来る意味なくない?》
《あっ、私も今後の勉強として参加させて下さい》
《あっそう、じゃあ〇〇駅の駐車場に9時》
――会議当日。
私と尚文はメールはしていたものの、この日話し合いで、あやのさんも呼ぶと言う事と、不動産屋と、大家にもの申したい気持ちもあり、私は半年ぶりで、尚文との再会にふみきった。
尚文は、京介の車に乗ってきたが、相変わらず変わりなく、メールしていたせいもありすぐ話も出来た。
「変わりなかった?ちゃんと食べてる?」
「うん」
「今回は大変だったね」
そんな他愛もないやり取りを交わすと、あやのさんからメールがくる。
《今どこですか?駅のどこら辺の駐車場ですか?西口ですか?東口ですか?》
まったく、動揺していなく、相手の堂々とした変わらない感じに、私の方が、びくびくしてしまっていた。なんなんだこの人……。
《今、外出てみます。あっドトール見える駐車場です》
誰かこっちに、コーヒーを2つ持って来る人がいる。あれは、あやのさんだ。コーヒーでご機嫌とろうとしてるのか?
「あっ、おはようございます」
あやのさんは私に、しれっとした感じで、声をかけてきた。
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