第85話 完全犯罪
部屋に入ると、あやのさんはテキパキと片付けを始めた。まるで自分の家かというようなくらい、片っ端から段ボールを開けて、棚やクローゼットにフィギュアや、ゲーム、CDを並べ始めた。
私も、台所の細々していた所を片付けていると、隣にあやのさんもきて、食器を洗ったり、冷凍庫にあった賞味期限が切れた肉をばんばん捨てたりしていた。冷凍庫なら1ヶ月くらいはもつのではと内心思ってたが言いそびれていた。
「私カレー作ってますんで、お母さんは、お風呂掃除してきて下さい。」
「あっでも、まだお風呂の洗剤買ってないからいいよ。そんなに汚れてないし」
「じゃあ、これで洗ってみてくださいね」
と、新しい台所のスポンジと、台所洗剤を渡されて、お風呂場に追いやられてしまった。まあ仕方ない、そこまで言うならと、私も台所洗剤は無いだろと思いつつ、軽くスポンジで風呂釜を洗って、シャワーで流して台所に戻った。
あやのさんは、手際よくカレーを作っていた。既に、材料は切られ鍋に入れられ、ルーも入れられていた。ちょっと、どす黒い色はしていたが、なかなかいい匂いはしていた。
「せっかくだし、食べていきなよ」
「いや、私はいいです。ここに今日泊まるんですよね。そしたら、沢山ご飯あった方がいいと思うから食べて下さい。あっ、でも美味しくなかったら、無理して食べなくてもいいですからね」
と言われた。私は普段のお礼も兼ねて、デパートで買ったお土産を渡して、お茶とケーキを出した。
「実は私、父親が小さい頃に母親と別れてて、母親と、姉と暮らしてたんですけど、仲悪くて今は一人暮らしなんですけど、この間なんか、近所のスーパーで、母親とたまたま会ってしまって、私の顔見るなり、なんであんたがこの町に住んでるの?って気絶され目の前で、倒れたんですよ」
「母子家庭親子とか、仲悪い親子は珍しくないけど、会って気絶までするってそれ本当にあった話なの? その後どうなったの?」
「姉と連絡とって、来てもらって救急車で病院に運びました」
なんか突飛な話過ぎて、聞いてはいけない話を聞いてしまったような気がして、それ以上は深く追求しなかった。
今考えると、どこまで本当で嘘だったかも分からない。かりに本当だとしてもかなり、やばい事をした人物と気づくべきだった。
夕方17時になろうとしていた頃に、あやのさんが時計を見ながらこう言ってきた。
「私、お金100万円貯めたんです。それで今月〇〇町に引っ越し予定なんですよ。もうそちらの物件を借りていて、尚文さんが泊まりに来た物件は、ほとんど今、家具とかないんです。後は捨てるものしかなくて。今日はその新しい物件の方に泊まるんで、近くの駅まで車で送ってもらえますか?」
「あー、そうなの、いいけど。暗いから何だったら、自宅まで送ってもいいよ」
「いや、結構です。自宅知られたくないんです。いろいろ個人情報ですので」
(今更?家の事は散々、住所も名前も生年月日も年齢もくまなく聞いたくせに何を言ってるんだ)
とりあえず今日は、もう送って行くだけと思い、言われた駅まで送っていった。
別れてから、ガソリンスタンドによって財布を開けた時だった。
ない。
お金が消えてる。
やられた。不審だと思ってた彼女だったが今まで、お金を盗んでいたのは、紛れもなくあやのさんだった。
私は、35,000円、尚文が当初の所持金20000プラス後からの29000円
合計84,000円の被害額だった。
愕然として、頭が真っ白になった。何分間、いや、何十分ただボッーとしていたか分からない。
怒りを超えた悲しみ、さらにそれを超えた喪失感がただそこにあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます