第83話 引っ越し

 前に借りてた県境のアパートを引き払う為に引っ越しの片付けを京介と私はしていた。壁には、尚文が付けた大きな穴が3つあいていたので、私はネットで業者を調べて、見積もりを2社からとってもらって、安い方に決める事にした。


 立ち会いのもとスムーズに作業は進んだものの、そこのアパートは部屋全体が昔の壁紙で、一部だけ変える訳にもいかず、部屋全体の壁紙を変える為、10万を軽く超えてしまった。痛い出費だった。


 荷物は全部車に詰め込んで、最後に拭き掃除と、掃き掃除も済んで、アパートの引き上げは完了した。いろいろあった苦い思い出ともこれでおさらばだ。


 このころ、尚文は、ビジネスホテルに泊まっていることが多かった。なぜかというと、よく作業員がトラックで山の中の一軒家に訪ねて来ることがあったり、来ても無視して居留守を使うと、庭に作業員が食べていたであろう菓子パンの袋を捨てていったりと、散々だったからだ。それに、電柱工事の音が響いていたせいもあるためだ。


 そんな事もあり、山の中の一軒家の方も引っ越しの片付けに、京介と私は手が空くたびに行っていた。こつこつ頑張ったかいもあり4、5回で引っ越しは完了する。


 実は、ここの大家さんは、数ヶ月前に事故で旦那さんが亡くなっていた。いろいろ家のゴタゴタに迷惑をかけた状態だったので、申し訳ない気持ちが私には内心あった。


 奥さんであるおばあちゃんは、おじいちゃんといつも一緒にいたので、1人残されて心配だったが、おばあちゃんは息子さんがたまに来るらしく、おばあちゃん自身も1人で軽トラを運転したり、かなりしっかりしていたので、安心した。最後までおじいちゃん、おばあちゃん大家さんには、親切にされたと思う。


 こちらも、掃き掃除、拭き掃除して、最後に大家さんに挨拶をして帰ってきた。


 これで、2軒の物件の引っ越しは完了した事になる。新しい物件でも落ち着きはしないが、前の物件に戻れる訳ではないし、このまま家賃を支払う余裕はない。前に進まないと行けない。そう思いながら身を引き締めた。


 女の子(あやなさん)とあう日がやってきた。尚文はいなかったが、2、3日アパートに滞在する費用と、当面の費用をATMでおろして、一応おもてなしをする為に、ケーキやお菓子、飲み物などを買い込んで、待ち合わせの場所まで、向かった。


 時間通りあやのさんは来ていた。私との約束には遅れたことはない彼女だったが、尚文の話によると、数時間や半日、時には連絡なしで来ない日もあると言っていただけに、きちんと時間通りに彼女が来るのは、不思議だった。


 その後、一緒にランチをカフェで軽く済ますと、「何か今晩食べたいのないですか?作りますよ」と聞かれた。かなりビックリしたが、せっかく作ってくれるならと、「じゃあカレーの材料買うから作ってくれる?」と私も断るのも失礼かと思い好意にのった。

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