第80話 お金が消える

 尚文が彼女(あやね)さんと別れて帰ってきた朝方の事だった。あやねさんは仕事なので朝9時に駅で、別れたらしいが、その後尚文は、お財布にお金が入ってない事に気がついた。


 《いつ使ったか覚えてないのだけど、2万円入れてたはずなんだけど、今12円しか、お財布に入ってなくて帰ることが出来ない、どうしたらいいかな》


 と私に尚文から緊急メールが届いた。


「デートで使ったんじゃないの?覚えてないの?ご飯とかで出したんじゃないの?帰れないなら、困るだろうから、とりあえずこの間頼まれていたゲーム売れたから、そのお金2万円と、一人暮らし応援金として、私から1万円送っておくから大切に使うんだよ」


 とその場で受け取れるように、尚文の口座に入金した。ゲームのお金というのは、尚文から頼まれていたゲームを売った売り上げ金の事だ。


 なんとか、その日はそのお金で帰ったらしいが、帰って少し眠ると、落ち着かなくてまた、近くのゲームセンターに夕方遊びに出掛けたらしい。


 すると1時間くらいして、尚文の携帯に不動産屋から連絡が入った。


 「201号室の高梨さんですか?今どちらにいますか?」


「はい、高梨ですが、どうかされましたか?今は近くのモールまで来てますが何か?」


「下の階の住民の方が、上から水が漏れてるって言ってるんですけど、早く帰って来てもらえますか?」


「引っ越ししてきてから、水道を使ってませんよ。数週間前にお風呂には入りましたが、日にちが開いてるし、昨日今日にいたっては、トイレも使ってませんけど」


「とにかく、下の階の人が困ってるので急いで帰って下さい お願いしますよ」


 尚文はモールに着いたばかりだったが、渋々自宅に戻る事にした。そこの場所から歩いて長い急な上り坂を、40分歩かないと自宅には着かなかった。バスには乗れなかったので、必死で言われた通り急いで戻ると、誰もいなく、水道も漏れてる様子は一切なかった。


 特に不動産屋からも連絡はないし、何だったんだと思い自宅にいると、それから2時間くらいして、下の階か外から、賑やかな声がしてきた。時間は夕方18時くらいだった。耳をすましていると


「警察を呼んだほうがいい」


「いつもうるさいからそうするか」


などと聞こえてきた。何事かと思ってると、それから20分後また警察官が、訪ねてきた。


「ピンポーン、ドンドンドン、いますか!」


 尚文は対人恐怖を持っているので、例え相手が警察でも開ける事ができない。怖くて私にまた、メールで今の状況を知らせてきた。


 その状況を聞いた私は、あやのさんと連絡を取ると駅前にて、仕事終わった所だから、尚文の所に行ってくれるとの事だった。その事を尚文に伝えると、安堵したのか後はあやのさんと個人的にやり取りを上手くしていたように思えた。


 ――そして1時間後。


 尚文からメールがきた。


《あやのさんは来てくれたけど、男の人と一緒に来て、しかもたいした事で呼ばないでって言ってすぐ帰っていった。何しに来たのかわからない》


《警察は帰ったのかな?状況は説明できたの?》


《インターホン出なかったら、警察は帰っていってその後に、あやのさんたちが来たの》


《今日ここのアパートに泊まるのかなり不安なんだけど、テレビのボリュームとか、何時頃まで付けててもいいとか、お風呂も時間帯あったら教えて》


 尚文はかなり神経質になって生きた気持ちがしなかったのではないかと思う。


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