第76話 京介と猫

 私はまた飛び出してしまった。これで何度目だろうか。一度目と、二度目は尚文からいなくなり、三度目と四度目は私から逃げてしまっていた。今回も移動出来ない山の中に、たった1人取り残してきてしまった。


 死活問題なので、すぐ京介に連絡をとり、その日のうちに、山の中まで来てもらった。


「何があったんだ」


「尚文に叩かれて、耐えられなくなって出てきた。」


「そうか。まあ今日は、家にきたらいいよ。疲れただろう」


「うん。ありがとう」


 京介に来てもらい、自分から逃げ出したのだけれど、尚文の事を任せられると安心して肩の力が抜けていた。


 警察が、私と京介の所に来ると「今日はとりあえずお子さんと離れて下さい。親子だからといって20歳超えた人の面倒を見る必要はないんです。まして、母親だからといっても、離婚してお子さんと名字が変わってるし、法律上は、見る義務がないんです」


「でも、こどもは病気を抱えてるんです」


「病気を抱えても、1人で生活してる人は沢山いますし、見てきました」


「こういった例はよくあるんですよ。お子さんが訪ねて来ても、出ないようにして下さい。もし来たら、110して下さい」


ときっぱり言われた。その言葉に驚いたが、少し警察官の言葉に心のどこかで安堵していた。


 私はその日、心細さも相まって京介の自宅にお邪魔した。猫がいたからその日は寂しくなく眠る事が出来た。


 その後、京介は尚文の所に仕事の合間をぬって食料を届けたり、時々買い物に連れ出したりしてくれていた。


 私は生活を立て直したり、心を落ち着かせる事に専念した。時折、尚文の事を考えると辛くなり、胸が締め付けられるほど、苦しくなって、涙が止まらなくなっていた。


 しばらくは、何にも手につかず、すぐ尚文の事ばかり浮かんでは、離れてきた罪悪感に辛くなり、1人で心細くなってるのではと心配していた。


 それとは裏腹に、京介が見に行くと尚文は、かなり羽を伸ばして、自由に楽しんでるという話だった。ちょっと複雑だったが、私がいる事で、今思うと苦しめていたのかなと再確認できる。


 親の心子知らず、子の心親知らずと言った所かもしれない。私もそれを聞いて自分の時間を満喫した。少しづつ食欲も戻り、外にも出掛けられるようになっていった。


 私にとって猫と24時間一緒にいて、癒やされた事は最高の回復だった。猫は行くとこ行くとこ、私についてきて私はいつの間にか、猫依存になっていた。


 私の生活が落ち着いたものの、尚文と前に県境のアパートに暮らしていた物件の家賃と今の山の中の物件、2重に家賃を支払ってる状態も長く続ける訳にもいかず、また新たな物件を探さなければならなかった。


 いろいろな施設や、役場、市役所から、情報を得ようと、手当たり次第片っ端から連絡したが、先に繋がるものは得られなかった。


 そんな時もヤフーの知恵袋で、相談したりした時、励ましてくれる方がいて、具体的な解決策は分からなくても、話を聞いてくれたり、励ましてくれたりする方のお陰で、私の心はかなり救われてまた、先に進む原動力を持つことができていたのだ。


 


 




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