第69話 山の中の人里離れた一軒家

 私は尚史と離れて、京介と猫と暮らし始めて1週間、久しぶりの平穏な日々を取り戻していた。朝ご飯を食べ、行きたい時にトイレに行き、お風呂に毎日入り、買い物や、散歩もして、猫とお昼寝をして生活していた。


 しかし、ずっとこのままでいられる訳がない。尚史はこの間も、ネットカフェや、ビジネスホテルをお金がつきるまで渡り歩いていた。運が味方をしてというか、その時は丁度、全国旅行支援割のgotoトラベルでビジネスホテルが格安で泊まれていた。


 とは言うもの、次の生活の場を探さなければならない。


 市内の角部屋のアパート、最上階の角部屋のマンション、田舎の集合一軒家、場所を変えてもっと田舎の、古民家一軒家、山小屋、県境で誰も住んでない貸し切りのアパート、すべて住んで駄目だった。


――残すは、森の中のぽつんと一軒家。


これしか頭に浮かばなかった。空き家物件をくまなく探して、町や、役場に問い合わせした。


3週間後。見つけた。


見学に行き、ビックリした。本当に山の奥地だった。獣道で、軽自動車が1台通れるかどうかくらいの道をひたすら真っすぐ走らせ、突き当りにその家はあった。


築何十年だろう。そうとう大きな家だった。

隣に池もあり、裏手にはお地蔵様もいた。


目の前は、数年前に土砂災害で大きく崩れ落ちて、ロープがしてあった。駐車スペースは1台あってその奥が、納屋があり隣は使われていない倉庫があった。


突き当りとはいえ、庭の前を通るとどこかに通じる道があった。大家さんの畑があり、そこから2つに分かれていて、もう片方の道に行くと、誰かの山に続いていた。


軽トラが、かろうじて玄関のすぐ目の前を通れば奥の道に行ける感じだ。崖崩れの為に車を停めてしまえば、行くことができない。


一応、崖崩れの部分は農道になってるらしく、誰でも獣道からそこの家に続く道は本来通れるらしいが、今は封鎖状態らしい。


そこの家じたいは、5つ部屋がありそれプラス大きめの台所と壊れて使えないお風呂場があった。


2つは大家さんの荷物で部屋が埋まっていた。使えるお部屋は、3部屋。そのうち1部屋も半分大家さんの家具を占めていた。


水道は湧き水が使えて、沸かして飲めて、電気は普通に使えた。エアコンと、テレビアンテナは、壊滅的だった。田舎過ぎて、Wi-Fiもアンテナは1本しか立たなかった。


多少の不安があったものの、後には引けない気持ちで、契約した。家賃は、35000円だった。もちろん、買い出しとかお風呂の関係がある為、私はまた尚史と一緒に生活することになる。


ここに契約した事で、尚史のビジネスホテル生活、約2ヶ月の生活が終わった。


尚史と京介と私の3人で、始めの1週間は寝泊まりをしてみた。まず、森の中に寝泊まりすること自体が怖かった。


しかし、毎度の事なのだが、なれてくると尚史は京介を避けるようになっていった。

私がいれば尚史が、京介の事を邪魔だとばかりに、帰れと言うようになっていった。


京介がいると好きかって出来ないからかもしれない。私がいくら「いてもらわないと私も不安だし、心配だから」といっても「会いたくない」「一緒にご飯食べたくない」の一点張りだ。


そのような圧力と態度に、京介が嫌気をさして、来なくなってしまった。そして、本格的に山の中での尚史との2人っきりの共存生活がスタートした。









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