第67話 臨界点

 とうとうその日が来てしまった。毎日気づけば殴り合いか、見張りをさせられて報告させられる日々。24時間神経を張り詰めている時にかぎって、私道からこちらをみている輩がいる。しかもカメラを構えている。


 2人組のサラリーマン。誰かは分からなかった。遠くで何か話ながら、こちらを指差し、携帯カメラを向けている。


 気になる事が増えてきていた。前の物産展のお客の車や、店員の車、そこから降りる人の動きも尚文は気になってしょうがなかったらしい。


 なんて事はない。車から降りて店に入ってるだけなのだが、ただただそれが威嚇に感じるという。


 たまに、物産展からの客が私たちの住んでるアパートの目の前まで来て、なにやら一眼レフカメラを構えて草花を撮っていた。


 それを見ると、もう駄目だった。「ちょっと偵察してこい」と尚文に言われて、私はその都度、見廻りに近所を徘徊していた。


 まあ、実は少し気楽だった。尚文と離れる唯一の時間で、一人になれるからだ。その時に、京介に愚痴の電話をかけていた。


「もう、……駄目かもしれない」


「そうか、じゃあそこから一人で出たらどうだ」


「でも、それでは尚文が心配だからほっとけないよ」


「しょうが無いじゃないか。大丈夫だから今車の鍵は持ってるなら、そのまま近くのスーパーまで行ってしまいな」


「バックや、財布は家に置いてきてるのだけど」


「今は、離れる事が先決だからいいか、分かったら落ち着いて、車に乗って行きなさい」


「分かった」


 いろいろ思う事はあったが、もう限界はとうに超えていた。夜も寝れない日が続いて数日がたっていた。尚文が寝てる間は夜どうし見張りをさせられていたからだ。


 昼間も仮眠しようものなら、1時間くらいで叩き起こされていた。2週間に1度の買い物や病院に来てくれていた、京介の事も怒って追い返す始末だった。


――今しかない。


 (たまたま、2、3日前に新しい住宅を探すため、私の車を京介の所から持ってきていた。)


 私は、車に乗り込むとエンジンをかけ、30分離れた閉まっているスーパーに車を走らせていた。


その後の記憶が今となっては、実は曖昧だ。


 京介がスーパーに来てくれたような気もする。そして、京介がアパートに様子を見に行ってくれたが、尚文がすでに玄関を開けっ放しにして、いなくなっていた。


 私と京介が交番に行き、状況を説明。保護を要請した時に、ちょうど尚文から交番に連絡が入った。


 内容としては、親がいなくなって身動がとれないから、なんとかしてくれと言うもの。今は県境の山の中にいる。お金を貸して欲しい。といったものだったようだ。


警察は「保護も出来ないし、お金も貸せません。困ってるなら、特別探しに行ってあげてもいいですよ」


 私は「保護出来ないんですか?」と訪ねたら、「何か悪さしたとかと言う状況なら保護は出来るんですが…」と言った内容だった。


 その後、京介は県境の山を探しに行ったが見つからず、結局、尚文が心配ではあったが、一旦京介と、一緒に尚文と住んでいた、アパートに恐る恐る戻り、バックと財布を探した。


 この日は京介の自宅に一度より、その日は、尚文から連絡があるかもしれないので別の場所に行きなさいと言われた。

 夜中2時をまわっていたが、自分が借りていた、別宅のアパートに久しぶりに帰った。


 尚文がグループホームを探して入っていた時に、私も今まで住んでいなかったが、万が一の時の為にアパートを探して借りていたのだ。






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