第62話 怪しいアパート

 京介から入院していた私に、何回か電話が来ていた。


「新しい物件を契約したから、尚文と一緒に住んでくれないか。あいつは、まだ1人では生活出来ないし、大家と契約する時の条件として、保護者が同居するのなら貸しますとの事だったんだ」


 そこは、私も以前尚文と、内覧していて県境で、淋しい所にあった。コンビニも店も車で20分くらい走らせなければつかない。

歩いて行けるのは温泉街と、目の前にある、市が経営している、観光案内所くらいだった。

 

 退院当日京介が車で尚文と迎えに来てくれていた。久しぶりの再会だ。尚文には、なんとなく今までの事を聞いたり、私が松葉杖をついていたので、なかなか家事とか、一緒にいても、身の回りの事が上手く出来ない事伝えていた。


 道中街からどんどん離れていき、森や川が見えてきて、店もなくなって来て一抹の不安を感じていた。私は今足がない。骨折したせいもあり、車を使えない状態で、こんな山の中にきたら、果たして生活を送れるものなのか、心配で仕方がなかった。


 アパートに到着。国道から脇の道を入ってさらに奥の私道を抜け、市で運営している駐車場がある。そこの一番奥の木の階段を登り、さらに30メートルくらい歩くと2階建ての鉄筋のアパートがあった。


 ひっそりとたたずむそのアパートは、暗い雰囲気があった。北側の玄関側は、山になっていた。そこまでいく間の木の階段を登りきって、アパートに行き着くまでも、草がかなり伸びきっていた。


 誰もいないアパートに今日から尚文と2人で生活。しかも私は、松葉杖でなかなか役立たずだ。これからどうなる事か、先行きはぱっとしなかったが、ここまで来たいじょうやるしかない。そんな思いで暮らし始めた。


 家電はすべて京介がある程度、揃えてくれていた。生活するには困らなかった。食材も1週間に1度は運んでくれ、私や尚文の病院にも連れて行ってくれたのでなんとかなっていた。

 半年経った頃ようやく足からギブスが外れ、松葉杖なしでも歩けるようになっていた。まだ、足は引きずってはいたが、外出は出来るようになっていた。少しづつ外に買い物に行くようになった頃、 また問題が発生していた。


 尚文がATMで記帳をした時に気づいたのだが、家賃が2重で毎月引き落としされていた。大家さんに直接支払っていた分と、なぜか保証会社を通しても引かれていたのだ。あまり記帳してなかったので気づかなかったようだが、7ヶ月くらい重複して引き落としされた事になる。

 慌てて、保証会社に連絡して止めてもらい、大家さんに返還してもらえる手続きをしようと電話したが、大家さんに繋がらない。何度かけても繋がる事はなかった。


 困って、保証会社から大家さんに連絡してもらうように伝えるも、個人でしてくれと言われて、らちが明かない。もちろん、保証会社の返金は出来ないとの事。困って、弁護士に相談に行く事にしたのだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る