第59話 ニ度目の別れ
グループホームの、施設長(ダンディなおじさん)の勧めで、仕事場を一緒に見学する事になった。施設を利用するしないに関係なく、新しく出来たサブカルの仕事場が気になるから、付きあってくれないか、と尚文が誘われていたのだ。
尚文もそこの仕事場は、声優や、ユーチューブ動画の作成、アニメーターの育成、など、興味のそそられるジャンルが幅広くやっていた。終始楽しく見学が終わり、帰りは、電気やさんに防犯カメラを買うのを付きあってと言われたらしく、楽しく1日を過ごしたようだった。
そこのグループホームに入れたらどんなに良かったかと思ってはいたが、楽しい日はそう続く理由もなくまた日常が戻ってくる。
尚文と2人でいる事が、私にとって怖く感じていた。このままで外部から孤立する恐怖もあったが、以前パニックになって叩かれてから、私は正直2人でいる事が少なからずとも怖く感じていたのだ。
親としてこんな感情を抱くのは最低だと思う。だが、成人した男性が本気を出した時の暴力は、加減をしらない。中学生までなら体力もまだ私の方が上だったが、今となっては叶うわけがない。
絶対的な力を持った相手と一緒に常にいて、いつ怒りにふれるか分からない。それが、コントロール出来ている時ならまだしも、今は感情が乱れている。
それが、私はトラウマになっていた。誰か第3者と一緒に行動できるように、出かけ先を見つける事が先決だった。
院内でも集まって何かを作ったり、話し合いしたり出来る場所があると聞いて、見学をしてみた。だが、気に入ったら、来て下さい。と言われ内容は具体的には教えてもらえなかった。
あくまでも本人がその気にならないと受け入れてもらえない。尚文の場合、出来るだけ関わりたくない気持ちがあるので、かなり強引に、引っ張り出してくれる雰囲気がないと無理だ。もしくは、楽しそうな雰囲気がないと難しい。
結局、見学しただけで帰る事になったが、帰り道院内で、尚文と喧嘩になってしまった。
私は廊下に疲れたと言って、しゃがみこんでいた。尚文は周りの人の目が気になる事から一刻でも早くその場から離れたかったのだと思う。私は、いろんな事から疲れきってしまって、少しそこに座っていたかった。
「おい、帰るぞ、いつまでここに、座ってるんだ!」
「少し、疲れた、私はもう少し座ってる」
こんなやりとりがあった後、頭を思いっきり叩かれ、カバンから車の鍵を持っていかれ、スタスタと尚文はどこかに歩いて行ってしまった。
渡り廊下のような所に腰掛けていたので、確かにそこを通る人の目には目だったのかもしれない。
私はもうまただ……と思った。入院しても、薬を変えても何も変わらない。やはり元に戻ってしまう。そんな事を思い、もうどうなってもいい気持ちだった。
涙が溢れてきたが、泣いていてもしょうがない。気を取り直して、私が通っていた精神科に入院の手続きをとり、その足でタクシーにのり向かった。(職場でパワハラがあり、尚文と2人で生活してから、追い詰められて精神科に通っていた。)
私は、それから1ヶ月間入院生活が始まる。実質尚文と離れ離れになったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます