第57話 ピストル
グループホームに入ってから1週間が過ぎようとしていた頃、施設長から連絡が入った。
「夕べご近所さんが、警察呼んだみたいで、どうやら尚文さん拳銃のようなもので撃ったとかって苦情が来てるので確認して下さい」
「ピストルですか?分かりました。聞いてみます」
「いつ頃こちらにこれますか?もし今日中にこれるなら話し合いしましょう」
「では午後2時に宜しくお願いします」
一旦尚文に事情を聞くためラインをいれる。
「警察来たみたいだけど、夕べ何かあったの?」
「警察?イヤホンしていたから来たの気付かなかった。昨日の夜、12時過ぎようとしてた頃、向かいの家で騒いでて、何事かと思って、覗いたんだよ。そしたら、庭で奥さんらしき人がまた、なんか騒いでてうるさくて、玩具の銃で空に向けて2、3発撃ったんだよ」
「それか…いくら空砲でもそれは驚くよ。それはまずかったね。その事で警察が自宅行ったみたいだけど気づかなかった?」
「うるさいから、イヤホンして音楽聞いてて気づかなかった。」
「施設長から連絡きて、話し合いになるらしいから、きちんと話してね 午後2時に私も行くから」
「分かった」
その後、障害者支援事業相談員、施設長、私と、尚文で話合い警察沙汰になっているのだから、別の部屋に変えましょうという話に落ち着いた。
ライフラインの契約もすべて住所が変わる事でし直し、引っ越しも必要で、役所の手続きもすべて必要だった。数十メートル離れた先に引っ越しただけでかなりの手間暇だ。
そこでは落ち着けるかと思ったが、今度は隣の音が気になるとかで、昼間は出かけたいと言われ、10時には迎えに行って、夜22時に送って行っていた。
そんな生活も長く続く理由もなく、1週間で隣の人とトラブルになり、結局そのグループホームは退去する事になる。
実家に戻る事になった尚文とのまた共同生活が始まった。
役場でも何回も相談していて、病院を宮城県に変えればもう少し協力出来るかもしれないと言われ、指定された県内の国立の病院に移る事になった。ただ私は1つ不安があり、それをのんでもらえるなら病院を変えてもいいと伝えていた。
それは、薬を変えるたび尚文の興奮度が変わったり、強いと1日中死んだように眠り続けたりする。眠り続けている自覚は尚文自身もあって、そんな人生、ない方がましだと何度も涙を流して訴えられていた。
なので、薬が合うようになるまで入院という形をとってもらえないか。と言う事が条件で役場の人に付きそってもらって病院に行った。その時は、尚文の意思とは別だったと思う。
病院につくと、聞き取りの時の担当医者とは気があったようで終始穏やかに終わったが、本番の担当医者と変わったら上から目線だから嫌だと、診察室を途中で退室してしまった。
このままでは、通う事が難しいと考え、私は少し強引に、私が診断結果を聞くから一緒に診察室に入ってくれないかな、と尚文にもちかけた。尚文はしぶしぶ了承し、私の隣に座った。
先生が、話し始めた時に尚文に前置きをした。
「今からお母さんに診断結果をお話しますね」
「何こっち見て話してるんだよ」
机を蹴った。(バーン、ガターン)
「尚文、やめなさい」
「俺はこいつとは話したくないんだ、じゃあ帰る」
と立ち上がった瞬間、後ろにいた看護師に腕を掴まれて、「ダメです。座ってください」と言われたその時に尚文はその看護師を殴ってしまった。
緊急ボタンが押されそのまま強制入院となった。私は何も出来ずただひたすら12人に羽交い締めにされ連れて行かれる尚文を見送っていた。
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