第55話 グループホーム体験

 区役所の勧めで、尚文とグループホームに体験で見学してみることにした。

 一応施設の人には、音に過敏な事、対人恐怖があり慣れにくい旨の話をした。その時は話をくんでくれたように思った。


「角部屋だから音は気にならないと思いますよ、反対側は倉庫だから、誰も来ないので安心していられるでしょう」


「そうですか、ありがとうございます」


「お母さんも安心して今まで出来なかったご自身の事やって下さい」


 そう言われて、かなり安堵して尚文に頑張ってね。と伝えて、その場を後にした。


 私は急いで、一番最初に髪を切りに1000円カットに車を走らせた。何年も髪を切る機会がなかったからだ。無事髪も切りスッキリ何年かぶりで幸せな時間を味わっていた。丁度お会計が終わり出ようとしたタイミングで、メールが尚文から来た。


「ちょっと、いれそうにないんだけど……

迎えにこれるかな?」


「えっ?どうしたの?」


「利用者に目をつけられて、トラブルになって、施設の人が前からいる人の味方だから、まったく話聞いてくれなくて……」


「そうなんだね。困ったね」


「もうすぐごはんなんだけど、施設の人交代したから、なんとかなるかもしれないけど、眠れる気がしない」


「今日は、もう遅いから明日午前中に迎えに行くから」


「分かった」


―次の日。


「急いで迎えに来て。施設の人と大喧嘩した。もう、こんな所いられない」


 早朝に催促の尚文からメールがきた。

ただ事ではなさそうだと感じた私は急いで迎えに行くと、グループホームに着くなり尚文が車に乗って来た。


「もう帰る!」


「支払いしてくるから待ってて」


 と言って事務所に行き、施設の人に話を聞こうとしたが、あんな息子さんだとは思わなかった。の一点張りで、状況がつかめなかった。


 支払いを済ませ、車に戻りとりあえず何があったのか聞くために、落ち着ける場所に車を走らせた。


「ひどかったんだよ。あの後、部屋で静かに携帯していたら、部屋の前に誰か来てずっと様子見てたんだよ。シルエットが見えて怖かったんだから」


「それでどうしたの?」


「シルエットが消えたから、トイレやっと行けると思って、行ったんだけど、そしたらトイレの隣に誰か入って来て、ギャーギャー騒ぎまくって」


「それは怖いね」


「それで、急いで出て部屋にダッシュで戻ったの」


「そしたら?」


「部屋の前でまたギャーギャーなんか怒鳴って来て、無視してたら、今度はドアを蹴ってきて」


「それで騒ぎになったの?」


「そう、施設の人が出できて何騒いでるって言ってて。なんか、俺の事言ってて」


「で、どうなったの?」


「おいっ出でこい!って施設の人から言われて出て話聞かれたんだけど」


「うん」


「俺が威嚇しただの、ある事無いこと言われて。してないって言っても信じてくれなくて。言ってるやつは、普段から良い奴だから信用できるとかで」


「それで話にならなかったんだね」


「それで、施設の人に白状しろって胸ぐら掴まれて」


「酷い、怪我とかしなかったの?」


「大丈夫、振りほどいたから。でもそれで結果帰るしかなかった」


 夜の施設の人は事の有り様を聞いてくれたようで、少しは尚文も苛立ちや悲しみが収まってはいたようだった。帰り際も深々と頭を下げてくれたのは、夜の施設の人だった。


 初めての体験でこんな事になるとは、考えてもいなかったので、この先が私も尚文も不安でしかなかった。



 

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