第36話 事情聴取
家宅捜索で、押収されたのは、10年前に使っていた修学旅行のカバンが一つ。
一昨年からサイズが合わなくて着ていないコートが一着。
家にあった使いかけの木工用ボンドが一つ。
この3点が押収された。
尚文はすぐには戻ってはこられず何日間か、警察署で事情聴取が続いた。
何があったのか?
なんで呼び出されているのか?
なんでこんな目にあわないといけないのか?
警察に聞いても、なにも教えてはくれない。
その後、父親の京介が尚文に私選弁護人をつける手配をした。
弁護士を通じて何があったのかだいたい状況が分かってきた。
数ヶ月前に、病院に入院してる、兄のお見舞いに行ってる時、投石事件で巻き込まれた事があった。
どうやらその被害者宅で、今度は器物破損事件があったらしい。
そこで、容疑をかけられたのが、尚文だった。
あれ以来、兄のお見舞いに行く時は、被害者宅の付近には駐車していないので、私達は事件との接点はない。
事件の内容は、被害者宅の玄関ドアの鍵穴に、ボンドがぬられていたらしい。
器物破損のあった当日、私達は現場に近づいていない。
まして、尚文は私と24時間離れられず、毎日一緒にいる。
いいがかりもいいところだ。
前の投石事件で、警察に目をつけられたとしか考えられない。
前も濡れ衣だというのに、とんだ災難だ。
今回の押収された品も、何年も使っていなかったカバンや、どこにでもあるような木工用ボンドを押収されて、犯人扱いなんてあまりにもひどすぎる。
人生で警察に捜査してもらう事はあっても、訴えられる事はありえないと思っていたので、絶望感を味わった。
だか、考えようによっては逆に貴重な体験もしてると感じていた。
色々考えると、この先頑張って、あの借家で猫と一緒に、一から尚文とやって行こう、と決めた途端、近所の騒音に悩まされて、途方にくれていた。
ここに住むのが、難しいと悩んで壁にぶつかっていた矢先の出来事。
こんな騒ぎを起こしてあの地域ではこれから静かに暮らしていく事は難しい。
田舎では警察が来た噂はすぐ広まる。
だがすこし、怪我の功名というか、ほっとしている自分もそこにいた。引っ越しが確定するからだ。
金銭的な事もあり、自分の中で引っ越しはしないとしばりを作っていたので、動けなくなっていた。
無駄に頑張っていたのかもしれない。緊張の糸が切れた瞬間でもあった。
それに、尚文にとっては警察署にいれば、まわりは警官だから最強のボディガードだ。
いつも周りが敵で、危害を加えられるって怯えてる尚文は、警察署に居ることは、今はちょうどいい環境なのかもしれない。
つかのまの休憩。
そう考えるのも悪くはなかった。
京介は、田舎の方に中古の一軒家を買って引っ越していた。
事情をくんで、同情してくれた京介は私と、尚文の住んでた家の引っ越しを手伝ってくれ、自宅に一緒に住もうと言ってくれた。
その後尚文は、証拠不十分ということで、2週間で釈放された。
名誉毀損で訴えられないのか?
せめて謝罪があってもいいのではないか?
私がそう思ったのは言うまでもない。
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