第26話 カウンセリング
話は並行して、尚文のカウンセリングしてくれるカウンセラーを探していた。
それは 年末の寒い雪の降る日だった。
街はイルミネーションに輝いていた。
街の雰囲気の明るさと、空気の寒さが、今の自分が置かれてる状況の辛さに妙に染み入った。
ある有名なカウンセラーに予約が取れたのは年の暮れ。世の中は恋人も家族も賑わってるように見えた。
私と尚文だけが世間から取り残されたかのような寂しさを感じる。
その時は、人づてで良いと聞いてたカウンセリングに一筋の希望を抱いていた。
グーグルマップを検索しながら街の中の一等地に、カウンセリングの場所の家がある事がわかり、出来るだけ近くに駐車して、私達はしとしと雪降る中を歩いていた。
「はじめまして、今日予約していた◯◯と申します」
「はじめまして こちらにお座り下さい」
「軽い心理テストをしますので、書いてもらえますか?」
尚文は一通り目を通して、記入した。
カウンセラーと尚文の会話のやりとりを聞いていた。回復までのプランを説明されていたような気がする。
初めはスムーズに進んでいた。
ところが、尚文にとってある壁に当たるような質問をカウンセラーに答えた時に、明らかにカウンセラーの表情がこわぱった。
「あ……性格の悪さは、ここでは直せません」
「ん? えっと、何か今、すごく失礼な事を言われたような気がしたのですが。そこまで言われるのなら、もう見ていただなくても結構です」
このあと、私は自分の耳を思わず疑いたくなるようなことをカウンセラーは尚文に言ったのを忘れられない。
「あなた、なんで生きてるの。生きている意味があるの?」
尚文はカウンセラーの顔をにらみつけて怒りに声を震わせながら、言い返した。
「そんな嫌味を言ってカウンセリングしてくれる気がないなら、お金を払うのはおかしくないですか?」
「ええ、なら今回のお代はいりませんので、お引き取りください」
こんな緊迫した会話のやり取りが、尚文とカウンセラーとの間で行われた。
耐えきれず尚文が苛立ち、カウンセリングルームから飛び出した。
納得が行かなかったが、高額な費用のカウンセリング料金の返金に時間がかかっていたたので、私はその場に残らなければならなかった。
「先生、なんで病んでる子に追い打ちかけるような言い方をするのですか?」
「人は落ちるとこまで落ちると、後は上がるしかないので落としてみました」
カウンセラーは頭を抱えながらそう言った。
お手上げという雰囲気で、辛そうにカウンセラーは言っていた。
これからどうしたらいいのか分からなく、途方にくれているのは、こちらの方だった。
返金を受けて家を出たあと、私があたりを探すと、尚文はカウンセリングのあったビルの入口の階段に座り込んでいた。
また尚文の心に傷ついたように思えたが、これまでも散々な思いをしてきた尚文にとっては、カウンセリングにあまり期待をしていなかったようで、もうこれ以上落ち込みようがないといった感じだった。
尚文にとって、またひとつ、メンタルが強くなった出来事なのかもしれない。
一等地にとめた駐車場料金は、精算したら1時間で3800円になっていた。
いくら時間やお金をかければ、この状況から立ち直れるのか。
泣きたくなるような寒さと、路上販売をしていた石焼きいも屋のやきいもの甘い匂い。
イルミネーションに飾られた街を、先が見えない日々に不安を感じながら、私たちは家路に着くのであった。
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