第22話 自損事故

精神的にまいっていたせいもあり、いつもにもまして注意力が散漫になっていた。


一週間ほど前から、ヤクルトを契約するはずになっていた。

しかし、契約日に自宅にいられない苛立ちがあった。尚文が朝から自宅に居たくないとせがむ。

私は知り合いの人たちと会って、気を紛らわしていたが、尚文がいつも私と一緒に行動したがるため、知り合いの人たちと思い通りに会えなくなった苛立ちも重なってしまった。


朝から尚文が外に出たいというので車で買い物に出かけたのだが、細い道でイライラがつのり、安直にスピードを出してしまった。


神社の脇の溝に見事に脱輪して落ちた。

思いっきり、車の底を擦り傾いて止まった。

尚文がいた助手席側に車は大きく傾いた。

ドアも大きな擦り傷ができた。


私と尚文に怪我はなく、人や動物を巻き込んだりしなかったのは、不幸中の幸いだった。

初めての事故で、我にかえった瞬間だった。


「ああっ、大変!」

「どうしたら……とりあえず車屋さんに電話しよう」


任意保険に加入してなかったので、自腹で車を修理する事になった。

修理額45万……これでも、購入した販売店が、いろんな板金屋さんに掛け合ってくれたらしい。

愕然とした。

やってしまった事と、車の保険の大切さを痛感した。


台車をその間借りることになった。

動揺のせいか、その台車も駐車場の車止めに乗り上げて底を擦ってしまった。

その台車の修理費も、さらに5万円かかってしまった。


なんともお粗末な結果になったものの、自損事故だったので、誰も怪我させなくて良かったと思った。

 

修理から車が戻って自宅に運ばれて来た時には、近所からいろいろ人だかりができるほど、ジロジロと見られてしまい、悪い噂まで立っていた。


田舎だからか、何か起きるとすぐ人の噂にされる。何を話されていたのかは知るよしもないが、良い噂ではなかっただろう。


その一ヶ月後に、事件がおきた。

愛用の自転車のサドルに、ボンドが大量に塗られていた。さらに、自動車はパンクさせられていた。

警察に急いで連絡したが、発見が日曜日だった事から


「休みで人手が少ないんだから、そんな事でいちいちこちらにかけて来ないで下さい」


少し苛立った口調で対応されたので、そんな事もあるのかと思いながら、翌日の月曜日に連絡した。

すると、警官二人が自宅に訪ねてきた。


「千葉県から来た車なんですね」

「釘が刺さってますが、これは事故かもしれませんよ」

「道路でよく釘を拾う事はありますよ」

「あと自転車ですなんですが、これ、他人がやった証拠ありますか?」

「防犯カメラとかで、確認できるものが残っていませんか?」

「被害届は、今回は無理ですよ」


そんな事を言われて、また、もやもやした気持ちになった。

警察の対応なんて、こんなものなのかと、また悔しさがこみあげてきた。





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