第21話 言われのない罵声

毎朝、隣の車のドアの開けしめ音で精神的にまいっていた私は、何とか対策出来ないものかと悩んで思いついた方法が、隣よりも早く起きて、外に避難するというものだった。


尚文に相談し、毎朝4時15分には起きて自宅斜め前の無人駅の駐車場に車で避難していた。

問題が起きたのは、避難を始めて三日後の事だった。

眠い目をこすりながら、尚文を起こし車で無人駅の駐車場で待機してると、家の隣から出てきた例の問題の車がこちらに近づいて来た。

一人の事務服を着た女性が運転席から降りて来て、仁王立ちして凄い形相でこちらに向かって叫んでる。

「警察呼んでやるー!」

「……」

意味が分からない。

今はっきりと、そう言われた。驚きすぎて思考が停止してしまった。

なんで、隣の音でまいって避難していたのに、そんな事を言われなきゃならんのだ。

時間がたって、ふつふつと怒りがこみあげてきた。

でもトラブルは避けたいし、どうしようもないので、その件は保留にした。

もやもやした気持ちを抱えながら、過ごしていた。

尚文もそんな近所で一人ぼっちでいたくないと、私と一緒にどこにでもついてきていた。


そんな日々を送ってると、今度は車で買い物に出かけている時、バックミラーにいつも同じナンバーの車がいることに気がついた。


(気のせいかな)


様子を何日か見ていたが、偶然にしてはいつも目的地がバラバラなのに、決まってその車もついてきている。

気にしないようにしていたが、どうやら同乗していた、尚文も気づいたらしい。

「なんかつけられてるんじゃない?」

私は気持ち悪いので、ある日行動に出てみた。

コンビニに入ると、やはりその車もコンビニに入ってきた。

私が駐車場からなかなか出ないので、しびれを切らしたのか、先にその車が動いた。

これをチャンスとばかりに、ゆっくり後をつけてみた。

それに、すぐ相手は気がついたようで急に細い道に入ったり、右、左、ジグザグに走り、住宅街をむやみやたらに猛スピードで、走り抜け、私を巻こうとした。

私も必死に食らいつき、映画顔負けのカーチェイスをして、ついていった。

相手がびびったのか、途中急にスピードを落として、自宅に戻ってびっくりした。

そこは、私達の家の目の前のお宅だった。


相手が車を停めたので、私も車を停めた。

凄い表情で降りてきた。

「なんだてめぇー、喧嘩売ってんのか!」

ドスの効いてる声だった。

「こっちのセリフですよ、なんなんですかもう、何か用でもあるんですか、毎回つけ回したりして、気持ち悪いんですよ!」

私も負けじと食ってかかった。

「つけ回したりたりしてねぇ」

「ウソつかないでください、いつも同じナンバーなんですよ、どこいっても後つけて来てるじゃないですか!」

「そもそも、俺の奥さんの車だからよく知らねぇし」

「じゃあ、奥さまにも言っといて下さい」

最後にそう言って後にした。

その後、問題になった向いのお宅の駐車場から、こちらにライトを向けてエンジンかけて何時間も乗ってるというような事が始まる。

威嚇しているかのようだ。

その後つけ回しのストーカー行為はなくなったが、まったく、気が休まらない。



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