第19話 不審な車

いつものように朝早く、兄の病院に電車で向かっていた。

 

兄の様子を見てから、主治医との面談や、ケースワーカーとの話し合いがあり、帰宅したのは夕方17時くらいだった。


家に着くと留守番していた尚文から、とんでもない事があったと聞かされた。

 

家に一人でいると、斜め向いの近所の子が、出てきてテニスをしはじめた。

姉妹2人の小学生くらいだ。ボールが、何度も家の壁や窓に当たり、跳ね返っていく。

その子達がテニスの壁打ちを止めれば、今度は向い側のうちの子、つまりうちのお隣の子が、今度はサッカーをし始めたらしい。


サッカーボールも家の壁にドン、ドンと凄い音をたて、遠慮なしにぶつけていたという。


尚文は、音に敏感になっている。

たまりかねて、外へ散歩に出かけた。


自宅から100メートルほど離れたあたりは、のどかな田園風景が広がっている。

その田んぼの間のあぜ道、農道と呼べるか分からないが、普段あまり使われていないトラクターが一台通れるかどうかの細い道が、その先の墓地まで続いていた。


そのあぜ道を、尚文が昼間ゆっくり散歩していたら、外車らしき車に乗った金髪に染めてる二人組に、目を見開き凄い形相して80キロくらいの猛スピードで、追いかけられた。

轢かれかけたという。


もちろん、尚文は焦りながら走って、両サイドにある田んぼへ飛び込んだらしい。


道と田んぼには結構な段差があり、死角になる所がある。

尚文は横たわり身を隠して、やり過ごそうとした。


すぐ近くにその外車が止まった。


「チッ、あいつ、どこに行きやがった」


車から降りて来た2人組は周囲を見渡して探しまわっていた。


しばらくして、あきらめたらしく外車がエンジンかけていなくなってから、尚文はおずおずと起き上がった。


道路に出ると何が起きたのか意味が分からず、

しばらく呆然としていたらしい。


田んぼに飛び込んだから轢かれなかったが、いきなり明らかな殺意を向けられ、恐怖がますます増すばかりになっていた。


そんな事があったと伝えられ、今度からは兄の病院に尚文も一緒に連れて行く事にした。


だが、尚文は人混みが苦手だ。

人に酔い、電車の乗り継いで行く病院までの道のりは、かなり身体にも、精神的にもしんどい。


ずっとペーパードライバーだった私は、車の購入を考えた。

車もネットで注文。


人生で初めて車を買うのに、何を重視したらよいか分からないので販売員にすすめられるまま、選んでしまった。


車種は、前にテレビのCMで見たことのあるインパクトのあった車にしてみた。


中古の軽自動車にも関わらず130万が高いのかわからない。


価格の相場はわからないが、ただ今の現状を考えて必要があるので、購入にいたった。


楽しみにしていた納期がきた。

しかし何故か、鍵が1本しかない。

私が1本しかない理由を聞くと、整備士が踏んで壊したからだとあっさり言われた。


とりあえず若葉マークつけたいくらいの運転初心者だった。

私はペーパードライバーだったが、免許を取得してしばらく過ぎた人は、若葉マークつけるわけにもいかないと思い込んでいた。


私はおそるおそるアクセルを踏んだのだった。


 

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