第16話 Go to hell

こんな事になったのは、いろんな原因が考えられると、私は良からぬ思考に及んでいた。


数年前──。


母が亡くなって一週間が過ぎた頃、私は会社の上司から話をしようと、ランチに誘われた。


最初は、他愛もない話と、母の死をねぎらう話をされていた。


そのうち上司は「あなたを救えるかもしれない」と、真顔で言い出した。


日時を指定され、ある会館で私は上司と待ち合わせすることになった。


宗教の勧誘に私は疎かった。初めはなんの事か分からなかった。


何人もの信者に囲まれて「あなたは救われる」と言われた。


「いや、いいです」

と私が誘いを断り続けると、別の部屋に案内された。


何人も年配の信者たちが、私の前へやってきて対応された。

結局、私は最後には根負けして、入会の書類にサインする事になってしまった。


それが、宗教との関わり始まり。その宗教では三障四魔といって始めた頃には悪い事が起きると言われていた。


もし、信仰が原因でトラブルが起きてるとしたら、私にはとても耐えられないと思った。


上司に言われるがままやってきたが、もしかしたら、これもトラブルの引き金になっているのではないかと考えてしまってる自分がいた。


騒音トラブルも、引っ越しの繰り返しも。


その時期に同時に、自分に女性ならではの病気にもかかり大きな手術も受けている。


こんなに、次々と重なるのは、宗教が原因ではないかと思い込んでしまっていて、怖くなっていた。


その宗教は、崇めてる御神体以外は崇めてはいけない決まりがあるので、神社やお寺にも行ってはいけない。

お正月に初詣に行ってはダメだと教えられた。


もちろん、他の宗教の信者を受け入れない。「地獄に落ちる」という教え方が私には腑に落ちなかった。

この宗教をやってないと絶対に幸せになれないという思想だった。


兄の脳梗塞の手術の成功を私は手術のあいだ病院で祈った。

藁にもすがる思いで、結局御本尊様に祈っていた。


兄の手術の結果以外にも、良いご利益を感じることもあった。


良いことはあるのだが、そのあと忘れた頃に悪いことが起きる。題目を続けられない私はこれでは、ただの繰り返しなのに気づいてしまった。


私はさらにこの宗教が怖くなった。

本当に神に祈って効果があるとすれば、信者として不信心だったら、祟られることもあるかもしれないと感じたからだ。


「そんなこと言わないで、代わりに祈っておくから、いつでも戻ってもらえたら」


代わりにという意味が私には、まったくわからなかった。


私は、紹介してくれた上司に説明して、脱会の手続きをした。

実際のところ私はまだ信者として扱われてるのか、不明ではある。


その宗教の団体の集まりに、私は今は参加していない。


兄の手術は無事成功したと告げられても、まだ油断がならない気がして、私は帰れずに病院の集中治療室の前にいた。


面会が出来ない状態でも、医師からの無事成功しましたという言葉で私は安堵した。

この時ほど医者は神の手なんだと思った事はなかった。


兄の彼女さんとも、今後の話をした。

彼女は兄のサポートをすると言ってくれ感謝した。彼女は兄のために生活に必要ないろいろなものを揃えてくれた。


兄の一命はとりとめたものの、右半身不随で、車椅子生活となって、障害者1級になった。


3ヶ月が過ぎ無事意識が戻った兄は、車の運転が大好きで、スポーツカーに乗っていた事を思い出していた。車好きで車の整備関係の仕事までしていた兄は、もう一生、運転できないことを深く悲しみ、ひどく落ち込んでいる日もあった。


それからは、兄の彼女さんと連絡を取り合い、二人で施設入所までの段取りを進められたのはとても心強かった。

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