第13話 価値は100円

尚文の学校まで歩いて、約10分。私たちにとって好立地の物件。


しっかりしたマンションタイプの見た目の物件に、今度は住むことができた。


母子家庭では、どこも貸してはくれないので、保証人を夫の京介にお願いした。


あと2日で、クリスマスだ。世間では、家族や恋人たちが浮かれている季節。


殺風景な部屋。

段ボールが積み重なったまま、かろうじて寒くないように居間には、カーペットを敷いてこたつと、テレビだけは置いてある。


母と子だけで過ごす初めてのクリスマス。

ささやかながらもコンビニで、ケーキやコーラを買ってきた。

私たちは、なんとなくクリスマス気分を味わっていた。


前の物件も隣にお寺があった。今回の物件もなぜか、駐車場の隣にお寺が建っていた。


お正月は、初詣にそんなにお寺へ参拝客は来ていなかった。どんと祭は、盛大に焚き上げていたので、二階まで、灰が舞い上がっていた。


そのうち、よく沢山のカラスがベランダに来るようになった。

窓からお寺や墓地とカラスがまとめて見える。なんとなく不気味な感じがした。


一月末、私が雇用保険の手続きのため職安に行き、部屋を留守にしてる時の話。


尚文がトイレを詰まらせたのか、下の階に水が漏れたと、不動産から苦情の電話がきた。


そもそも、この水洗トイレ。入居した時から流れが悪かった。


下の階に水が漏れているので、確認のために留守中に自宅へ合鍵を使って入りますという連絡だった。


私が慌てて帰ると、たしかに部屋のトイレが詰っていて、水が溢れていた。


業者や不動産が確認に来る前に、とにかく掃除はしておいた。

詰まりの原因が気になったので、訪問した清掃業者にトイレを解体して調べてもらった。


原因は、トイレットペーパーの芯が詰まっていたとの事だった。


全く身に覚えはない。

保険で水漏れの処理はしてもらった。

私は下の人に謝りにいかなければと思い、何度か訪問して、インターホンを鳴らした。

しかし、出てくる様子は全くない。

時間や、日にちをずらして行ってみても住人が出て来る様子はない。


前の物件では、引っ越しの挨拶で失敗していた。今回は警戒して引っ越しの挨拶はしていなかった。


それが裏目に出たらしく、相手も警戒してるのか、訪問しても、出てきてはくれなかった。

 

今考えてみると、その件から嫌がらせが始まった気がする。


下の階から、夜中の3時にシャワーを浴びる音がする。

テレビの音量がやけに大きく、下の階に様子をうかがいに降りていくと、なぜか玄関ドアが開けっぱなしになっている。

おそらく最大音量で、テレビつけっぱなしにしたまま、廊下に音を流している。


さらに隣の部屋には、12人か13人ほどのいろんな人が出入りしている。

外国人や、子供や男の人たち。

大きな荷物を出し入れしていて、壁越しに、時々だが大きな音聞こえてくることがあった。


ある日、集合ポストに届いていた私宛に届いた手紙の中身が抜き取られた。

それは中学の時の恩師からの手紙だった。


差出人の連絡先は変わってなかったので、どんな内容の手紙だったのかを連絡を取り確認することができた。手紙の内容は恩師の連絡先のメールアドレスや住所、近況報告の挨拶の手紙だった事がわかった。


さすがに気分が悪いので、私はこのポスト荒らしの件を警察に届け出てみた。


「いくら個人情報を取られてもね、所詮、手紙の価値は100円くらいですよ……それでも、あなた、被害届けを出しますか?」


悔しかったが「お願いします」と言ったら、なぜか、私の指紋の採取を徹底的にされた。

自分が犯人として疑われたようで、さらに嫌な気持ちになった。


もし警察で、ポスト荒らしの犯人が特定できたとしても、被害者の私には知らされないというのも、どうも納得がいかない。


私はもやもやした気持ちのまま、警察署から帰ることになった。





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