第12話 新たな居場所

冬が近づき、寒さが身に染みる季節になった。


引っ越してきたアパートでは、眠れない日々が続いていた。


アパートの駐車場の向かいのお寺で、毎朝六時に鐘がなる。

夜中に一睡も出来ず、響いてくる鐘の音を聞きながら、そのお寺に向かって、ぼんやりとしたまま合唱していた。

そのあと洗顔するとき、鏡に映った私の顔の目元には、ひどいくまができていた。


尚文も学校を休みがちになり、外出せずに引きこもっていた。

尚文は、300メートルほど離れた一軒家から小さく聞こえる掃除機の音にも反応して苛立っていた。


私も近所のスーパーに、買い出しに出かける時に、後ろから誰かにつけて来られているような気がして、早足でアパートに帰ってくる。

つけられていたわけではなく、それは同じアパートの住民だった。


玄関前で不意に変な音がしたり、誰かがいるような感じがしていたりする。


一度不審感を抱くと、何故か全てが怪しく思えてくるのは、自分でも不思議だと思った。

心配すぎて警察に通報したこともあった。


私も寝不足で疲れ、神経質になっていたのだと今は思う。


このままではいけないと、不動産に何度か相談しに行った。

この物件は、三十の部屋数があるが、現在五部屋しか入居者はいない状況。

空き室は、大家さんの物置になってるとの事だった。


相談に行ってみて、私たちの暮らしている四階の部屋のちょうと真下の部屋の三階の住人と、二階の住人が以前から仲が悪く、トラブルを抱えてる物件だという事がわかった。


トラブル物件から引っ越すと、次もトラブル物件に当たるジンクスがあると聞いたことがある。


入居して、三週間がたった頃、不動産の担当者が訪ねてきた。


「おたくは警察を呼んだ事もあるし、今月分の家賃はいらないので出ていってもらえませんか?」


不動産にはすでに十八万ほど入居費用を支払っている。

鍵交換代、クリーニング代とか、火災保険代など、仲介手数料などはもちろん戻ってこない。


眠れない日々を過ごしていた上に、別の物件も急に言われても選ぶ余裕がない。


さすがに一週間では部屋を出れないので、夫の京介に相談した。

私たちは、しかたなくマンションに一度戻ることにした。


尚文や私は精神的にかなりすでにまいっている。

問題のあるマンションに住めるはずもなく、荷物だけを仮置きさせてもらった。


私は息子と暮らすための新しい物件を、ビジネスホテル泊まりをしながら探していた。


引っ越しシーズンのすぐあとは、良い物件の空きも多い。たとえば、三月の引っ越しシーズンのあとの、四月のはじめあたりなど。


私が新居をまた探していた季節は、あまりもので賃り手のない空き部屋しかない季節だとあとで知った。


構造上、壁の薄い木造アパートでは駄目だと思った。

尚文が一ヶ月後には学校に通えるように、マンションタイプの物件へ引っ越す事にした。


料金は高いが、最上階の角部屋。

今度はしっかりエアコンもついてる。


前よりは環境が整っているので、少しは安心して暮らせると思った。

その考えは甘かった。

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