第7話 我慢の限界

上の階の住民による嫌がらせは、警察官を呼んだことで、エスカレートした。


午後から夜22時までの仕事で、私がクタクタに疲れきって帰宅。

やっと自宅で一息つけると思う夜中に、上の部屋の住人は狙って騒音を立て始める。


椅子を床に引きずるような音。

バスケットボールでドリブルをしているような音。

家具を移動するかのような音。

空き瓶や空き缶をゴミ袋にまとめておき、ベランダで逆さまにぶちまけて散らかしてるような音。 


夜中の3時くらいまで続くその音を聴かされて、尚文は苛立ち、夜に眠れなくなっていった。


私自身も睡眠不足が続き、仕事にも悪影響が出ていた。


上の階から床を杖か何かを突く音。

ペット禁止マンションで、何かの動物が走ってるような音までする。


(わざと端から端まで遊んで走らせてるの?)


管理事務所に、上の部屋のペットの足音がうるさいことや、上の住民がペットを無断で飼ってるのではないかと報告してみた。


「離れて住んでた娘さんが猫を飼えなくなって、特例で理事が許可したらしいですよ」

「そうですか。なら、うるさくて、生活出来ないので、せめてカーペットひくなり、対策してもらえるように伝えてもらえませんか?」


数日後──


「管理事務所としては、カーペットを使うように強制はできません」

「はぁ?」


話にならなかった。

ペット禁止マンションで、特例で許可したとしても、周りの住人が迷惑してると苦情を出している。

迷惑している側が妥協して、せめて対策だけはしてほしい言っているのに、それすらも話が通らない。


そう言えば、上の住民は今年、町内会の役員で、マンションの管理組合の人脈にコネがあるのかもしれない。

でも……。


監視されていたり、咳払いされたり、他の騒音で、すでに困ってはいるのだが……。


日記に音がした時刻を記録したり、ICレコーダーで録音したり、iPhoneでも録音して、証拠集めに、試行錯誤は続けていた。


そのうち、私も職場でのストレスと自宅の騒音による寝不足から、ノイローゼになって追い込まれていった。


「お願いだから仕事辞めてくれないか」


ある日、尚文から私は頼まれた。

日中の状況もかなり酷くなり、騒音がどれだけ深刻なのか、私はよくわかってないと言われた。


ノイローゼになり、高校も尚文は行かなくなった。


尚文は上から音が聞こえてくると、天井をグーパンで殴っていた。天井に綺麗に穴があいた。


そんな穴が家のあちこちに出来てきた頃には、もう、尚文だけでなく、私も限界だったのかもしれない。


(そうだ、もう、この家から出よう)


夫に相談してみた。

すると、マンションの部屋は売る気も誰かに貸し出しをする気はないと言う。


夫の意見はどうあれ、我慢の限界だったので、私は尚文を連れて部屋を出る決意をした。




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