母という人 005

瀬戸はや

第5話 母という人 005

005 母という人

母が通っていた女学校というのは 現在の 瀬戸高校が以前あった場所 らしい。瀬戸高校は現在ではまた違う場所に移転しているが 以前は母が通っていた女 学校があった場所にあったらしい。

高等学校がどういった理由で場所を移転したのかは 全く分からないが母が通っていた女学校は その後 瀬戸高校になり そして 瀬戸高校は その後 また今の場所に移ったということらしい。


数日前 偶然見ていたテレビの番組で 瀬戸高校の坂のことを取り上げていた。瀬高坂と言って歌にも歌われたらしい。僕も 以前仕事で瀬戸高校の坂を歩いたことがあったが、確かに 長く続く上り坂 だった。まさか テレビの番組で取り上げられ 歌にまでなるなんて思ったことがなかったが まあ多少 記憶に残るような 坂道ではあった。でもこの坂道は母が通っていた女学校の頃にはなかったし、母も全く知らなかったのだろう。


幼い頃の記憶の底に母が通っていた女学校を僕は見たという気がしていた。その記憶の中で僕は 乳母車に乗って母に押されながら女学校の校庭を見ていたということになっていた。こんなおかしな言い方をするのは僕自身に女学校の校庭を見たという記憶が全くないからだ。いや 正確には見たような気がするという記憶があると言うべきか。まだ赤ん坊だった頃の僕には 女学校の校庭を見たような記憶はあった。でもそれは自分自身の間違いのない記憶というより後から 誰かに聞かされた記憶と言った方が正確だろう。とにかく母が通っていた女学校の近くに叔父の家があり、その頃 僕たち親子はその叔父の家に間借りしていた。だから まだ赤ん坊の僕を 乳母車に乗せて母が女学校の校庭に行ったのかもしれない。そんな古い記憶がなんとなく残っているんだ 僕の中に。だからおそらく叔父の家に間借りしていた頃には まだ母が通っていた女学校はそこにあったんだろう。

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