4.■■の道連れに■ぬ

 大規模なテロがある、という情報は、一体どこから漏れ出したのだろうか。国家規模、下手をしたら戦争に発展するレベルのテロが起きる。大勢の死者が見込まれ、内紛では済まないだろう。確かそんな話だったはずだ。

 まことしやかに囁かれ、気がついたら皆が知っていた噂のXデーは、びっくりするほど普通だった。つい先週まであんなにも話題に上っていたくせに、TVもネットもその話で持ち切りだったくせに、首相が会見まで開いたくせに、嘘のように皆がルーティーンをこなしている。TVは暢気に天気予報と占いを垂れ流し、電車は普段と同じくらい混んでいて、友人は普段通り前から二両目の端で俺を待っていた。

「アステルダムの予言だかなんだかの時も、こんな感じだったのかねえ」

「ノストラダムスの大予言、な。あとそれ、多分アステルダムじゃなくてアムステルダム。オランダで一番デカいとこ。流石に高校生でそれはハズいべ? 他の奴の前で言うなよ」

「だいじょーぶ、オレが足りない子なのは皆わかってるから。愛嬌愛嬌」

「甘えんなバーカ」

 電車を降りて、友人と軽口を叩き合いながら通学するのも、いつもと何ら変わらない。目新しさも大きな危険も感じない。家を出る前に父が、目の前の友人と同じ事件を話題にあげて「あの時もこんなもんだった」と言っていた。一九九九年七月の某日も、ウザいくらい天気の良い平凡な今日とそんなに変わらなかったのだろう。

 生まれてないから知らんけど。

「……おい、■■」

 不意に友人が俺を呼んだ。振り向くと、友人は立ち止まってぽかんと空を見上げていた。 

「何だよ、間抜けヅラ――」

 何を見ているのだろうと視線を追い、笑いながら言いかけて言葉を失う。恐らく俺は今、友人と同じ間抜けヅラを晒しているだろう。

「何、だ?」

 空には拳ほどの黒い塊が見えた。周囲がたちまち暗くなる。遠くから近付いてくる地鳴りのような音はすぐに轟音へと変わり、暴力的な風が立ち始めた。空気が熱を孕み始め、次第に耐えきれないほど高温になる。

 ――何が「こんなもんだった」だよ。これ、『無理なやつ』じゃん。

 俺が最期に見た光景は、地獄そのものだった。


 ――死因:圧死

      (地球の道連れに死ぬ)

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