七日目

 茉莉まつりは両親との朝食中に、やはりニヤニヤしていた。両親がちょっと引くような、気持ち悪い声でつぶやいた。

「ふっふっふっ……。今日こそ、イケるのです。昨日はちょっと失敗しちゃったけど、今日こそうまく行くのです。

 なぜなら私は、ASMRをきわめたのです。ふっふっふっ……」


 するとまだ朝食を食べている両親に、元気良くげた。

「あ、それじゃあ私は、もう学校に行くから! 行ってきまーす!」


 そして登校とうこうの途中でペットショップに寄った茉莉は、たからかに宣言せんげんした。

「これで、イケるはずなのです! いや、これでイケるという自信が私にはあるのです! これで今日こそ、『君』とお話ししてみせるのです!」


 更に、気持ち悪く笑った。

「くっくっくっ……。そして、お話しした後は……。くっくっくっ……」


 学校に行くとその日の一時間目の授業は、英語だった。

 教室には教師きょうしが黒板にチョークで書く、音が小さくひびいた。

//SE黒板にチョークで書く音『カッカッカッ』


 それと生徒がノートに書く、小さな音も響いた。

//SEノートにシャーペンで書く音『カリカリカリ』


 茉莉はやはり確信した口調で、つぶやいた。

「うん。きっとこの声は、『君』の心をいやすはずなのです……」


 そして茉莉の前の席に座っている男子生徒の右肩みぎかたを、右手の人差し指で軽くつついた。すると何ごとかという表情の、男子生徒が振り向いた。


 茉莉は緊張きんちょうした口調で、ささやいた。

「ねえ、『君』とは同じクラスになって一カ月もつのに、まだお話ししたこと無かったよね。よかったら私とちょっと、お話ししない?」


 すると男子生徒は、少しあきれた表情になった。


 茉莉はそれは当然だろうという、納得の口調でささやいた。

「うんうん。当然、そうなるのです。でも、ちょっとってしいのです」


 すると茉莉はバックからセキセイインコが入った鳥かごを取り出して、机の上に置いた。


 そして真剣しんけんな口調で、ささやいた。

「ちょっと、この声を聞いて欲しいのです」


 茉莉は軽く、鳥かごを叩いた。


 すると静かな教室に、セキセイインコの鳴き声が響いた。

//SEセキセイインコの鳴き声『ピュロロピュロロピュロロピュロロピュロロピュロロピュロロピュロロピュロロピュロロ』


 そしてやはり茉莉は、得意とくいげな口調で男子生徒にささやいた。

「ねえ、どう? リラックスして安心した気持ちになって、私とお話しをしたくなったんじゃない?」


 しかし男子生徒は、前を向いてしまった。


 茉莉は、納得いかないという口調でつぶやいた。

「あれー? おかしいのです。セキセイインコの鳴き声を聞けば、誰でも癒されるはずなのです……」 


 茉莉が首をかしげていると、英語の教師が茉莉の机の横に立っていた。


 茉莉は、どうしたんだろうという、不思議そうな口調で聞いてみた。

「あれ? どうしたんですか、先生。そんなにこわい顔をして。え? ちょっと職員室にこい? 説教せっきょうしてやる? え? 授業中に、セキセイインコを鳴かせたから?」


 すると茉莉は、やれやれという口調で説明した。

「何だ、そんなことですか。それくらい私にも分かりますよ。でもこれには、海より深い事情じじょうがあって……」


 茉莉の説明の途中とちゅうで英語の教師は、茉莉の右腕をつかんで立たせた。


 茉莉は、あわてた口調になった。

「ちょ、先生、分かりましたよ~。職員室に行って、説教されますよ~。あ~れ~」

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