六日目

 茉莉まつりは両親との朝食中に、ニヤニヤしていた。両親がちょっと引くような、気持ち悪い声でつぶやいた。

「ふっふっふっ……。今日こそ、イケるのです。今日こそ、『君』とお話をすることができるのです。

 なぜなら私は、ASMRをきわめたのです。ふっふっふっ……」


 そして家の物置ものおきから、あるモノを見つけるとバックに入れた。


 するとまだ朝食を食べている両親に、元気良くげた。

「あ、それじゃあ私は、もう学校に行くから! 行ってきまーす!」


 そして登校の途中で、たからかに宣言せんげんした。

「これで、イケるはずなのです! まったく、これもASMRだったとは、まさに灯台下暗とうだいもとくらしなのです! これで今日こそ、『君』とお話ししてみせるのです!」


 更に、気持ち悪く笑った。

「くっくっくっ……。そして、お話しした後は……。くっくっくっ……」


 学校に行くとその日の一時間目の授業は、現代国語だった。

 教室には教師きょうしが黒板にチョークで書く、音が小さくひびいた。

//SE黒板にチョークで書く音『カッカッカッ』


 それと生徒がノートに書く、小さな音も響いた。

//SEノートにシャーペンで書く音『カリカリカリ』


 茉莉は確信かくしんしたような口調くちょうで、つぶやいた。

「うん。これだけ静かだったら、きっとあの音はこの教室まで聞こえるはずなのです……。

 焚火たきびの時は失敗したけど、これだったらうまく行くはずなのです……」


 そして茉莉はバックの中からジョウロを取り出し、しゃがんで教師に見つからないように教室を出た。更に水飲み場でジョウロに水を入れると、屋上おくじょうに向かった。茉莉は自分の教室の真上まうえにくると、ジョウロの水を屋上に流した。


 当然とうぜん、水がしたたり落ちる音があたりに響いた。

//SE水がしたたり落ちる音『ポタポタポタポタポタポタポタポタポタポタ』


 そして茉莉は、元気な声で勝ちほこった。

「ふう。これで、いいのです。これで私がいた教室に、水がしたたり落ちているはずなのです。

 この水がしたたり落ちる雨のような音で、『君』はリラックスして安心した気持ちになって、私とお話しをしたくなっているはずなのです。さあ、早速さっそく、教室にもどるのです!」


 するといつの間にか現代国語の教師が、茉莉の目の前に立っていた。


 茉莉は、どうしたんだろうという、不思議そうな口調で聞いてみた。

「あれ? どうしたんですか、先生。そんなにこわい顔をして。え? ちょっと職員室にこい? 説教せっきょうしてやる? え? 授業中に屋上から、水をしたたり落としたから?」


 すると茉莉は、やれやれという口調で説明した。

「何だ、そんなことですか。それくらい私にも分かりますよ。でもこれには、海より深い事情じじょうがあって……」


 茉莉の説明の途中とちゅうで現代国語の教師は、茉莉の右腕みぎうでをつかんで引っった。


 茉莉は、あわてた口調になった。

「ちょ、先生、分かりましたよ~。職員室に行って、説教されますよ~。あ~れ~」

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