四日目

 茉莉まつりはやはり両親との朝食中に、考え込んでいた。

「うーん、どうして昨日きのうも、うまく行かなかったんだろう。どうして私の前に座っている、『君』とお話をすることができなかったんだろう?……」


 だがやはり茉莉は、気をなおして元気な声を出した。

「やっぱり校庭こうていで音を出しても、聞こえないのです! やっぱり『君』の後ろで、快適かいてきな音を出すのです! さあ今日は、この方向ほうこうで行くのです!」

 

 そしてスマホでググって、よろびの声をあげた。

「こ、これです! これなのです! これなら知的ちてきな私をアピールできるし、一石二鳥いっせきにちょうなのです!」


 だが茉莉は、ちょっとこまった口調くちょうでつぶやいた。

「うーん、でもこれ、私は持っていないのです……」


 しかしひらめいた茉莉は、再び喜びの声をあげた。

「あ! そうだ! これは確か、お父さんが持っているはずなのです!」


 そして父にたのんで、それをりた。


 それをバックに入れると茉莉は、両親に元気良くげた。

「あ、それじゃあ私は、もう学校に行くから! 行ってきまーす!」


 そして登校の途中で、たからかに宣言せんげんした。

「これで、イケるはずなのです! これで今日こそ、『君』とお話ししてみせるのです!」


 さらに、気持ち悪く笑った。

「そして、お話をした後は……。くっくっくっ……」


 学校に行くとその日の一時間目の授業は、日本史だった。

 教室には教師きょうしが黒板にチョークで書く、音が小さくひびいた。

//SE黒板にチョークで書く音『カッカッカッ』


 それと生徒がノートに書く、小さな音も響いた。

//SEノートにシャーペンで書く音『カリカリカリ』


 茉莉はやはり確信かくしんした口調くちょうで、つぶやいた。

「うん。やるならやっぱり、教室なのです。校庭で音を出しても、聞こえないのです」


 そして茉莉の前の席に座っている男子生徒の右肩みぎかたを、右手の人差し指で軽くつついた。すると何ごとかという表情の、男子生徒が振り向いた。


 茉莉は緊張きんちょうした口調で、ささやいた。

「ねえ、『君』とは同じクラスになって一カ月もつのに、まだお話ししたこと無かったよね。よかったら私とちょっと、お話ししない?」


 すると男子生徒は、少しあきれた表情になった。


 茉莉はやはりそれは当然だろうという、納得なっとくの口調でささやいた。

「うんうん。当然、そうなるのです。でも、ちょっとってしいのです」


 そして茉莉はバックからノートパソコンを取り出して、机の上にいた。


 そして真剣しんけんな口調で、ささやいた。

「ちょっと、この音を聞いて欲しいのです」


 茉莉は一心不乱いっしんふらんに、ノートパソコンのキーボードをたたき出した。


 当然、静かな教室に、茉莉がノートパソコンのキーボードを叩く音が響いた。

//SEキーボードを叩く音『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ』


 そしてやはり茉莉は、得意とくいげな口調で男子生徒にささやいた。

「ねえ、どう? リラックスして安心した気持ちになって、私とお話しをしたくなったんじゃない? ついでに私のことを、ちょっと頭が良い女の子だと思ってもいいのです!」


 しかし男子生徒は、前を向いてしまった。


 茉莉はやはり、納得なっとくいかないという口調でつぶやいた。

「あれー? おかしいのです。ASMRには、パソコンのキーボードを叩く音もふくまれるはずなのです。そしていやされるはずなのです……」 


 茉莉が首をかしげていると、日本史の教師が茉莉の机の横に立っていた。


 茉莉はやはり、どうしたんだろうという、不思議そうな口調で聞いてみた。

「あれ? どうしたんですか、先生。そんなにこわい顔をして。え? ちょっと職員室にこい? 説教せっきょうしてやる? え? 授業中にノートパソコンのキーボードを叩いたから?」


 するとやはり茉莉は、やれやれという口調で説明した。

「何だ、そんなことですか。それくらい私にも分かりますよ。でもこれには、海より深い事情じじょうがあって……」


 茉莉の説明の途中とちゅうで日本史の教師は、茉莉の右腕をつかんで立たせた。


 茉莉は、あわてた口調になった。

「ちょ、先生、分かりましたよ~。職員室に行って、説教されますよ~。あ~れ~」

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