三日目

 茉莉まつりはやはり、両親との朝食中に考え込んでいた。

「うーん、どうして昨日きのうも、うまく行かなかったんだろう。どうして私の前に座っている、『君』とお話をすることができなかったんだろう?……」


 だが茉莉は、気を取り直して元気な声を出した。

「なんのなんの、今日は三日目! 三度目の正直なのです! さあ、今日は本気を出すのです!」


 そしてスマホでググって、よろこびの声をあげた。

「こ、これなのです……。これなら絶対に、成功せいこうするはずなのです!」


 そして、まだ朝食を食べている両親に、元気良くげた。

「あ、それじゃあ私は、もう学校に行くから! 行ってきまーす!」


 すると自宅じたくと学校の間にある、ホームセンターで買い物をした。

 

 そして、たからかに宣言せんげんした。

「これで、イケるはずなのです! これで今日こそ、『君』とお話ししてみせるのです!」


 更に、気持ち悪く笑った。

「そしてお話をした後は……。くっくっくっ……」


 学校に行くとその日の一時間目の授業は、数学だった。

 教室には教師きょうしが黒板にチョークで書く、音が小さくひびいた。

//SE黒板にチョークで書く音『カッカッカッ』


 それと生徒がノートに書く、小さな音も響いた。

//SEノートにシャーペンで書く音『カリカリカリ』


 茉莉は確信かくしんしたような口調くちょうで、つぶやいた。

「うん。これだけ静かだったら、きっとあの音はこの教室まで聞こえるはずなのです……」


 茉莉はバックを持つと数学の教師に見つからないように、そっと教室を抜け出した。そして玄関でくついて、校庭こうていに移動した。


 さらにムダに大きな声で、さけんだ。

「おーい! 『君』ー! 私の前の席に座ってる、『君』ー! こっちを見てくれるかなー!」


 すると茉莉の前の席の男子生徒ばかりでなく、全ての教室の窓側まどがわの席に座っている生徒が茉莉を見た。ちょっとずかしかったが茉莉の前の席の男子生徒も見てくれたので、茉莉は満足まんぞくした。


 そして再び、ムダに大きな声で叫んだ。

「ちょっとこの音を、聞いてねー!」


 茉莉はバックの中からホームセンターで買ったを取り出して、焚火たきびの準備をした。そしてチャッカマンで火を付けた。少しすると焚火の音が、茉莉には聞こえた。

//SE焚火の音『パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ』


 そしてやはり茉莉は、大きな声で叫んだ。

「ねえ、『君』ー! この焚火の音、聞こえるー? 聞こえるよねー、私に聞こえるんだから!」


 続けて茉莉は、やはり得意とくいげな口調で叫んだ。

「ねえ、どうー? リラックスして安心した気持ちになって、私とお話しをしたくなったんじゃないー?」


 しかし男子生徒は、前を向いてしまった。


 茉莉は、やはり納得なっとくいかないという口調でつぶやいた。

「あれー? おかしいのです。ASMRには、焚火の音もふくまれるはずなのです。そしていやされるはずなのです……」 


 茉莉が首をかしげていると数学の教師が、いつの間にか茉莉の横に立っていた。


 茉莉は、やはりどうしたんだろうという、不思議そうな口調で聞いてみた。

「あれ? どうしたんですか、先生。そんなにこわい顔をして。え? ちょっと職員室にこい? 説教せっきょうしてやる? え? 授業中に校庭で焚火をしたから?」


 そして茉莉は、数学の教師からショックなことを聞いた。

「え? 焚火の音は、教室までとどかなかった? 届いたのは、私の大きな声だけ? あっちゃー」


 茉莉は気落きおちして、小さな声で数学の教師にげた。

「先生、分かりました……。素直すなおに職員室に行って、説教されます……」

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