うつしえ

 学校が終わり、帰路に着く。今日は夢凪も藍空も部活で帰る時間が違う。だから1人で帰っている。気になってもう1回神社を見てみるが特に朝から変わったところはない。だが、古典の先生曰く池に何かがあるということらしいので中を覗いてみる。中は魚が泳いでいる。深さはよく分からないが少なくとも地上から水底が見える程ではない。他に何もなさそうなので仕方なく歩き始める。すると偶然、藍空と出逢う。


「水波、こんなところで何をしているの?」


「いや、別に。ただ、朝のことが少し気になって調べてみただけ。藍空は、部活じゃないの?」


「今日、コーチがいないから休みになったんだよね。そうだ、さっきの紙、もう1回見せて」


「いいけど別に大したこと書いてないよ」


『夢の海に空と波が行合はば夢のまことの居場所わからむ』


「これって、夢の海で空と波が出逢えば、夢の本当の居場所が分かるって意味なのかな?」


藍空は頭がとてもよく古典もその例外ではなかった。


「でも意味が分かったところでだよね...」


「いや、私心当たりがあるかもしれない」


「そうなの?まあ調べるのも程々にしなよ。どうせ意味なんて無さそうだし、勉強もあるからね」


「わ、わかってるよ」


「あと、何か僕に協力出来ることがあれば言ってね。できる限りのことはやるから」


「ありがとう」


水波は藍空と一緒に家を目指した。


こんな紙に意味があるとは思えない。だとしたら胸につっかえるようなこの感覚はなんだろう。そんなことを考えながら今日も眠りについた。




 目を開けるとそこは水中だった。そして手にはあの紙が握られていた。見ると『波』と『空』の文字が光っていた。


『やむごとなき人な親友に二枚目のこの紙を渡せ。』


裏には今までなかった文字が書かれていた。


「波と空」


私がそう呟くと目の前を激しい光が包み込んだ。




空から落ちている私の体は勢いよく落ちていく。


「えっ、何これ!」


下を見ると3人の高校生が見える。間違いない、私の目に映っているのは、私と藍空と夢凪だ。でも、私が3人に近づくにつれ夢凪の顔が塗りつぶされたように黒くなっていく。そんなことに気づく間もなく私は地面に打ち付けられる。辺りには男女の2人分の声が響いていた。街を歩くとそこはいつもと変わらない風景だった。家に向かっていると例の神社を通った。中に入ると本堂の前に水の塊が浮いていた。


「何これ。綺麗!」


水の塊の中を見ると紙が入っていた。自分が持っている紙と同じ言葉が書かれている。取り出そうとした瞬間本堂の扉から1人の男性が出てきた。20代後半くらいだろうか。顔立ちが整っていて袴姿がとても綺麗。


「そろそろ気付きましたか?」


彼は私の目を見ながら囁く様に言った。


「何にですか」


「以前夢の世界で聞いたことがあるんじゃないのでしょうか。『やむごとなき人な親友に二枚目のこの紙を渡せ。』と」


「そういえば確かにそんなこと言われたような気が」


「では、その紙を渡してこう伝えてください。『夢の世界で会おう』と。しかし、彼がこの事象について本気で向き合わない限りこの紙が現実世界に現れることは何ので気をつけるように。あと、身近にいる人を信用し過ぎないように...」


そう彼が言った途端私の体は光始めた。


「ねえ、なんでこんなことになっているの?ねえ答えて!」


私の声は届かず気づけば家の布団の上で眠っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る