第4話 猟師小屋 視点ジグ

予定では夕方までには村に戻るはずだった。

叔父に言われている仕事はまだ残っている。

また嫌味を言われるだろう。

ただ女の子を拾うなど、まったくの想定外の事があれば、小屋に泊まる事は仕方がない。


簡易暖炉でも炎を見ていると気持ちが落ち着く。

最近はぐれゴブリンが増えてきている。

冒険者を雇う必要があるか検討すること。

今回は、その調査の為の見回りも兼ねていた。

仕事を残せば、しわ寄せが誰かにゆく。

村を出てゆくというのに迷惑はなるべくかけたくない。

肩身の狭い村でも育った故郷なのだから。


弟は「聖女さまが現れた」と夕食も、そこそこに女の子に付きっきりだ。

夕食といってもパンと干し肉を炙ってかじるぐらいだから、弟には物足りないのは間違いないだろう。

自分と違い弟は格段に体格が良い。

今後、村を出て冒険者になれば、保存食を噛る事も当たり前になってゆくのだろう。

簡易暖炉で薪のはぜる音だけが小屋に響く。


冒険者だった親父と真っ当な村人の叔父は、生まれながらに、わだかまりがあった。

その親父が連れ帰った母親の分からない自分達兄弟を食べさせてくれた祖父には感謝しかない。

母も冒険者だったと父は言っていだが、本当のところはわからない。

親父は先代勇者の落し胤だったと村の酒場のオヤジに聞いた。


ただ先代勇者は正妻と側室との間に6人の子がいる。

それ以外で認知されている子がさらに数人いて、行きずりの子まで含めると50人以上子供がいるはずだ。

親父はその内の1人だったのだろう。


宿屋兼酒場で働いていて、勇者の子を孕んだと言う祖母。

先代村長の祖父はそんなお腹の大きい祖母と結婚した器の大きい人物だった。

そして、産まれたのが親父。次に祖父と祖母の間に産まれた実の子が叔父。

ソロス村は街道沿いの小さな村だが、それでも誰が村長になるかで色々変わる。

村人には一大事だ。


祖母が何人目かの叔母を産んだ後に亡くなり、親父は祖父に自分達兄弟を預け出てゆき帰らなかった。

冒険者の死に方は大抵そうだ。

そして昨年、村長だった祖父も病でなくなった。

勇者の血筋など、勇者の剣との契約以外に役にたたない。

だが、新たなる魔王が戴冠し不安が広まる今、村人のなかには叔父の息子と自分達兄弟を比べる者もいる。

だから、村にはいられない。

村にいられないなら、冒険者になるしかない。


「うんん~」

女の子の目が覚めたようだ。

「兄者!」

弟がどうしよう?と言う顔でこちらを見る。

(さてどうしようか?)

そっと、炎の側から立った。

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