均衡

巨大な観覧車。その頂上に到達する時、遠くで一瞬光が見えたような気がした。


「今なんか光りました?」


「そうだね。」


「今のって何ですか?」


「よくわかんないかな。今までに見たことはない気がする。」


「そうなんですか。」


観覧車が麓に着いて降りると休憩するために、フードコーナーに向かった。沢山の店が並んでいて迷ってしまう。その中でも、私は海鮮丼を頼んだ。沙華さんは雲の綿あめをのせた丼を頼んでいた。この世界では当たり前なのかなと思った。


「雲って食べれるんですか?」


「人によって好みは分かれるけど私はかなり好きだよ。」


彼女がそう言いながら美味しそうに食べる。


「何の音だろう...」


ふと、紙が私の手の中に何処かから投げ込まれる。すぐに辺りを見渡すもそれらしき人はいない。紙はまるでとあるワンシーンが映し出されているかのように見える。1人の少女がビルの屋上に立っているという光景。私はすぐにそれが何か分かった。でも一体なぜ?不思議に思った私は


「それもらってもいいですか?」


「別にいいけど、はい。」


何かの意味があるんじゃないかと思う。 そして、その映る光景を見る度に、過去が懐かしく思えて来てしまう。自分で選んだ道なのにそれが本当に正しかったのか。今まで考えて来なかったが、今真剣に考えても正解かどうかなんて分からない。


「沙華さんは今の人生って正解だと思いますか?」


「私は、正解も間違いもない。自分が責任持って選んだ道ならそれを生きていくしかないって思うかな。急にどうした?」


「いや、この紙に映る景色が私の死ぬ時と似ていたので。」


「なるほどね。まあ、そんなこと気にしてもしょうがないから楽しんで生きていこう!」


「はい」


私は彼女の正解も間違いもないという言葉に感性を動かされた。


遊園地を満喫して家に帰ると虹色の宝箱が机の上に置いてあった。蓋を開けると7つの穴と1枚の紙が入っていた。遊園地で見つけたのと同じような物だ。怪しさとともに恐怖感を覚えてその箱を押し入れの中にしまった。




 それから5年が経とうとしている。ここの生活にも完全に慣れ、沙華さんのバーで働くようになった初めは上手くいかなかった仕事も沙華さんの優しい教え方で全然苦にはならなかった。そんな雨の降るある日、傘を持たずに外に出ていた私は雨が止むまでビルの下で雨宿りをしていた。でも、止むような雰囲気はなく仕方なくビルの中で時間を潰そうと思った。ドアを開けて中に入る。


「失礼します。雨が止むまで中に入れてもらってもいいですか?」


反応はない。当たりを見渡すと仄暗い照明が点滅し、オカルトっぽいグッズが沢山置いてある。異様な雰囲気に外に出ようと振り向くと、老婆が立っていた。


「占いに来たんですか?」


「いえ、雨が止むまで雨宿りさせてもらいたくて」


「なるほど、まあいいでしょう」


「ありがとうございます」


「せっかくなんで占ってあげるのでそちらの座席に座って

ください」


彼女はそう言うと奥の方へと歩いていった。言われた通りに席に座ると机の上にタレットカードと水晶玉が置いてあるのが見えた。


「まずこの水晶玉の中を覗いてください」


「はい」


こうなってしまっては相手のペースに合わせなければならない。占いなんて正直あまり期待していないが時間つぶしとしては丁度いいだろう。中を覗くと何人かの少女が楽しそうに絵を見ている。飾ってある絵からしてこの辺の土地ではないだろう。


「これがあなたの今後するべきことです」


「これって?」


「現世に戻ることです、本来ならすることは認められていませんが」


頭の中が困惑する。


「これを信じるかはあなた次第ですが、もう一度人生をやり直してみる。それがあなたにとっての最善手だと私は思います」


そう言うと私の手に果実を乗せた。


「カルトの実です。これを噛まずに飲み込んでください」


目を見る限り真剣に言っているのだろう。卑下する意味もないので私はカルトを飲む。すると身体の内側から熱が溢れ出して、目の前に走馬灯のように風景が浮かぶ。学校の教室で楽しそうに話す姿。喫茶店で友達とお茶を飲んでいる姿。雨の中ビルの屋上で虚ろな目で飛び込もうとしている姿。


「これはあなたの生きていた頃の記憶です」


決していい記憶だけではないがあの時軽率に命を絶った私に後悔の気持ちが生まれる。懐かしいあの景色を再びみたい。そしてやり直したい。そんな想いが芽生えてきた。


「あなたはまだ未練を抱えています。まだわからなくても今後絶対に出てくるはずです。どうです?」


「確かに。心残りというかそんなものがあるような気がします。詳しいことはわかりませんけど。でも叶えたい夢があったということは思い出しました」


占い師はにやりと笑いすぐに今までになく真剣な眼差しで言った。


「なら話が早い。現実世界に戻って人生を続ける方法が一つだけあります。知りたいですか?」



「そんなものがあるんですか?」


「はい。ただし、この方法はルール違反でバレたら現実世界よりも遥かに下に存在する地獄に送られます。それでもいいですか」


正直今の生活に嫌だとは思っていない。ただ、夢を叶える。そんな経験はここでは出来ないだろう。なら、私は。


「お願いします」


占い師の目を見ながら言った。


「分かりました。ではここに行ってください。私のよく知る人がいます」

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