宝石箱

「この世界って死ぬことってないんですか」


「ええ」


「何があってもですか」


「私はここに来てから随分長いから言えるけど、ここは死後の世界。私たちの心臓は止まっている」


「でも、今動いてますよ?」


「確かに動いているんだけど...分かりやすく言うと仮想世界っていう感じかな。本当は死んでいるけど、その人のアバターがここで過ごしているって感じ。だから、心臓はないから死ぬことはないってこと」


「でも、なんで急にこんなことを訊いたの?」


私をじっと見つめてくる。


「終わらせるために飛び降りたのに、結局人生は続いているって考えていると嫌気がさしてきて...というか、人口って増え続けているんですか?」


「いや、定期的に別の国に送り込まれるらしい。詳しくは知らないけど。その国が、どのような場所でどこにあるのかも分からない」


「そんなんですね。それともう1つ、なんで、この世界に来たんですか?別に辛かったら話さなくてもいいですけど」


「私は生きていた頃、職場の同僚に好きな人がいて、いつかは結婚したいと思っていたの。でも重労働の末、飛び降り自殺してしまって。それを知った時はとても辛くて...だから彼を追いかけるように私も飛び降りた」


ため息を吐く音が聞こえる。


「でも、彼に会えることはなかった。そんな心の穴を満たすためにバーを営んでいるけど、どうしても定期的に思い出してしまう。辛い話でごめんね」


「いいえ。私から言い出したことなので。ありがとうございます。また来ます」


「ねぇ」


「はい」


急に呼び止められる。


「これからどうするつもりなの?」


「どうするって...」


「終わらない人生目標がないと本当に嫌になるから。何か一つくらい考えておきなよ。」


「分かりました。今日は本当にありがとうございました」


「またね」


手を振って店を出て、雨が降りしきる街の中を歩く。雨の音がいつもよりも、うるさく聞こえて耳に突き刺さってくる。しばらくすると空が突然、裏路地の方へ走り出す。


「ねえ、待って!」


追いかけるとそこには古びた教会があった。建物のところどころが崩れかけ、瓦礫が落ちている。そしてその前に、顔に靄がかかっている人が何人かと、人っぽい見た目ではあるが形的に人ではないよくわかんない生き物が立っていた。その生き物が、教会の扉を開けると辺り一面に砂埃が舞った。


「なにこれ!」


収まったと思って前を見るとそこには、人も謎の生き物もどちらもその姿はなかった。


家に帰って、体に付いた砂と雨を落としてからソファの上に座った。窓を見るとさっきより雨音が強くなっている。


「この世界って不思議なことがたくさんあるのかな」


雨が止んだら少し色々な場所に行ってみようと思った。




 しばらく歩いてこの世界の中心地とも言えるようなところへ向かった。そこは、現世では見かけることの出来ないような建物が立ち並んでいた。近未来的な装飾が散りばめられていた街はとても華やかまるで、街全体が宝石箱のようだった。雨上がりの匂いが残る中、少し歩くと遊園地の看板があった。ただ、それがあるだけで、他には何も見えない。疑問に思ったが、それなりに入る人がいたので、私は毎日、支給されるお金を支払って入ることにした。受付の門をくぐり抜けた途端、私の視界に入ってきたのは青く輝く空、巨大なジェットコースターに観覧車。他にも様々なアトラクションが一気に現れたのだ。どういう仕組みになってるんだろう。この世界の技術力の高さには感服してしまう。沢山のアトラクションの中で私はお化け屋敷に、行くことにした。機械で園内マップを表示しながら、5分ほど歩いた。お化け屋敷に着くと、建物の大きさに驚きが隠せない。8階ほどはあるだろうか。そんな、建物の迫力に圧倒されている時、1人の女性に話しかけられた。


「君って、こないだ店に来た子だよね」


バーの女性だった。


「せっかくだから、一緒に回らない?」


「はい。分かりました」


「ありがとう。それで今更だけど名前はなんて言うの?」


「麗と言います。」


「いい名前ね。私のことは沙華(さか)って呼んで」


私と沙華さんで2人で遊園地を楽しむことになった。

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